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第13回
〈脳卒中〉(2/2) 寝たきり原因トップの疾患 治療法や薬は加速度的に進化中

脳出血(くも膜下出血)の新しい治療法、コイル塞栓術にはマイナスや弱点も

最も重篤な脳卒中であるくも膜下出血は、その大部分が脳動脈瘤の破裂によって起きる。

「くも膜下出血を起こして運び込まれた患者さんは、脳動脈瘤からの出血がいったんは自然に止まった状態。でも放置すると再破裂の危険が非常に高くなるので、3日以内には再破裂を防ぐ治療をしなくてはなりません」(水谷医師)

標準治療は、開頭手術を行い、動脈瘤の根元を金属製のクリップで挟むクリッピング術と、脚の付け根からカテーテルを挿入し、血管内から瘤内にコイルと呼ばれる極細のワイヤーを詰めることで瘤をふさぐコイル塞栓術(脳血管内治療)だ。コイル塞栓術は1990年代に開発された手術で、開頭する必要がない低侵襲な治療法だが、マイナス面や弱点もある。

「一番の問題は10~20%の確率で動脈瘤が再発することです。それから手術中に動脈瘤が破裂することが約1%程度に起こり、その場合は止血のしようがありません。致命的になることが多いです。また、動脈瘤の形状によってはできません」(水谷医師)

そんな理由で、日本ではまだくも膜下出血を含む脳動脈瘤治療(注:未破裂のものも含む)の3割程度しかコイル塞栓術は適用されていない。

昨年7月より、「頭蓋内ステント」という新しい医療器具が保険適用となった。ステントは柔らかい金属性のメッシュ状の筒。血管壁に内側からぴったりとフィットして、補強したり、血流を調整したりできる。このステントを瘤付近の血管内に留置し、網の隙間から瘤にコイルを詰めて、動脈瘤内への血流を妨げる治療が可能になったのである。

「お陰で、従来のコイル塞栓術ではふさぎきれなかった、根元がくびれていない形状の動脈瘤や、大きな動脈瘤の治療もある程度できる可能性がでてきました。ただやはり血管内に異物を挿入し留置するわけですから、血液をサラサラにする抗凝固療法をしないと一定の割合で血栓ができて脳梗塞が起きる。また、血管の湾曲や蛇行が強い場合にはカテーテルを挿入できないなど、いくつかの問題点は依然として残っています。しかし、非常に期待されているのは確かです」(水谷医師)

昨今、脳ドックやCT、MRI検査などによって、未破裂の脳動脈瘤が多く発見されるようになり、手術件数も増加傾向にある。外科手術では開頭クリッピング手術か巨大動脈瘤などではバイパス手術を併用した手術。血管内治療ではコイル塞栓術が行われているが、将来は、頭蓋内ステントを用いた治療が普及する可能性がある。

「開頭手術の最大のメリットは、ほとんどの形状の動脈瘤に対応できること、動脈瘤の再発がほとんどなく根治的な治療であること、術中破裂に対応できることですが、リスクは、数%程度の頻度で動脈瘤に張り付いた細い動脈である穿通枝がクリップをかけたことにより血流障害を起こし、障害の原因になってしまうことです。穿通枝の張り付いた動脈瘤や、脳底動脈の先端部など脳の深いところにある動脈瘤は、脳を傷つけるリスクが高く手術しにくいため、そうしたリスクが関係しない血管内治療が第一選択肢になっている施設が多いですね」(水谷医師)

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