荒野のエッセイスト(映画編)

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第32回
舟を編む

辞書とは奇妙なものだ。
知らない言葉を調べるには最適だが、
あらゆる日本語を説明することを前提としているため、
だれもが当たり前に使っている言葉も取り上げなければならない。
そこに不条理が生まれる。

例えば「右」。
皆さんならどう説明しますか?
僕が子供の頃は
お箸を持つ方が右、
お茶碗をもつ方が左、
と教わった。
世の中ににはサウスポーの人もいるから
普遍的な事実を提供する辞書には使えない。

「舟を編む」
では、出版社の男(松田龍平)が、
「西を向いた時に北にあたる方角」
と表現していた。
これは正しいかもしれないがまどろっこしい。
今、手元にある三省堂の国語辞典では
「この本を開いたとき、偶数ページのあるほう」
とある。
ふーん、そう来たか……。
およそ「右」だけでもこれだけ厄介だ。
愛、夢、スケベなどはどう説明する?
だれでも知っている言葉を調べ
そこに使われた言葉をまた調べていくと、
袋小路に迷い込む。
例えば……。
次の言葉は何だと思いますか?
「革・ゴム・布などで作り、
胴から下に分かれてのびた長い部分の
うらのうしろをおおうものをはくときにあてて使う
竹などを細長くたいらにけずり、先のヘリをうすく作った道具」
さあ、答えは?

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