第79回
能ある鷹こそ、爪を隠そう
2017.04.28 [西澤 史子]
人はとても弱い生き物です。
特に男性は女性より社会的な居場所を失うことに対し本能的な恐怖を感じています。
よく“濡れ落ち葉”と表される定年退職した男性が奥さんの後をついて回り鬱陶しがられるなんてことは昔からよく言われる話ですね。これは、社会とのつながりによって自分のポジションを自覚する男性の性質によるものでしょう。定年退職後は奥さんがゆういつの社会とのつながりになってしまう為、濡れ落ち葉のようにまとわり付いてしまうのです。
一般的に男性は利他主義で、女性は利己主義な本質を持っていると言われています。
これは男性が社会的に評価される事に対し女性よりも強い欲求を持っているからでしょう。女性はどちらかというと”自分とそれを取り囲む世界さえ良ければ全てよし“的な本音を抱いている人が多いのです。だから社会的な評価よりも”ほどほど“と自分軸での幸せや成功に満足する割合が男性よりも女性の方が多いのです。
故に、男性は常に自分を脅かす存在に対し敏感です。シェークスピアやギリシャ神話等の古典や日本の歴史上でも男親の息子殺しの逸話や史実が数多く残されていますが、これは男性がいかに自分の社会的な地位に対し強固な執着と防御をしているかの現れでしょう。自分を脅かす存在はたとえ実の子供であっても容赦はしない。現代でも同族企業の “お家騒動”などでも似たような話がメディアを大きく賑わせてますね。
だから大企業等の大きな組織では早くから有能さが際立つ社員は意外と出世しなかったり、スピンアウトしていませんか?
切れすぎる人、有能すぎる人は一つの組織で長期的に出世の階段を上るにはリスクが高いのです。社会的な評価の中で生きている男性の仕事という戦場における嫉妬心は、生存本能に近いものでとても強いものです。この為、パワーをダイレクトに感じさせる男性ほど、その進路を邪魔しよう、潰そうとする“敵“が出てくる可能性が高くなります。
私が敬愛する松下幸之助さんは松下電器の販売店を一同に集めた全国一斉販売店会議の際に、自らお風呂で販売店の店主さん、当時の町の電気屋さんの店主の背中を
「いつも松下電器の商品を販売いただきありがとうございます。」
とお礼を言いながら一人一人洗い流したそうです。その当時はすでに松下電器が世界の松下となっている時代でしたから、当然販売店の店主は感激し、まずます松下ファンになり、販売を伸ばしていったとの逸話が残っています。
また、松下幸之助さんは病弱で身体も小さく細かったので常日頃から「一人では何もできないので皆さんのお力が必要です」と社員に言っていたそうです。
日本のことわざにある通り、「実るほど、首を垂れる稲穂かな」の様に、優秀であればある程、その“爪”を隠して謙虚で低姿勢な雰囲気をまとう方が人の心を掴む、それが日本という国における処世術なのかもしれません。
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