第12回
陽の光
2012.11.20 [星野 正紀]
地球には太陽からのエネルギー(光)によって生物が誕生しました。今、こうして私たちが存在しているのも太陽のおかげです。光には環境に変化を与える力があります。環境に変化があるために生物が誕生したと言うべきなのでしょうか。いずれにしても、太陽から貰える光には感謝しなければなりません。
夜行性動物ではない私たち人間は、昔、太陽が昇れば起床して一日の行動を開始し、陽が落ちれば寝床に着くというのが習慣(基本)でした。しかし、現代は蛍光灯などの人工光により1日24時間のあいだ、常に明るい環境で生活が出来るようになり、私たちは活動時間をそれぞれの都合と責任でコントロールするようになったのです。今回はモノづくりのテーマとして、人工光と太陽光の違いのひとつ「光源の動きの有無」による影響に着目します。
私が生まれる前の話になりますが、当時の住居は平屋が少なくなく、隣の家とはある程度の間隔を保って建てられていました。その後、私が生まれた頃には既に周りの家は木造二階建てが主流になっていましたが、わが生家は取り残された平屋(幼き子供心からの表現)だったのです。幸いにして隣家と離れていたので、庭側の縁台から延びた日差しが部屋の中まで入り込んで子供の遊ぶ環境を作ってくれました。小さな家とはいえ、友達もよく遊びに来てくれる家でしたので、畳上の日なたと日陰で境界をつくり、鬼ごっこのような遊びをした記憶があります。時間が経つにつれ、その境界は場所を移動し形を変えていきます。また、畳の上だけではなく、壁面でさえも差し込む陽の明かりには部屋のイメージを変える不思議な演出効果があります。棚の上の飾り皿に陽が手を伸ばせば、子供の手も親の趣味である装飾品に伸びます。その結果、親からはよく怒られました。(笑)
- 陽の光は普段、気にも掛けなかったものを、魅力的なモノへ変える力があります。-
そして時間は流れ、現在の居住環境と言えば、比較的密集した家並みに二階建て以上の木造や鉄筋モルタル、コンクリート、新素材パネル式など様々な一戸建てが増えてきました。その一方で共同住宅のマンションもより高層化し、とくに都心では現在、タワー型の建設が目覚ましくなりました。このように様式と共に生活環境も必然的に変化を続けている理由は理解できると思います。
その中で自然光が差し込む部屋(住居)はどのくらいあるのでしょう?マンション設計で大邸宅そのものの向きを初期段階で構想しますが、全ての部屋に陽の光を入れるのはとても難しい課題となります。これに対して、どちらかというと一戸建ての方が有利な点が多く、太陽の動きを計算した間取りが前者よりも造りやすいようです。確かに、戸建のデザイナーズハウスなどではかなり工夫が施された設計で恵まれた環境が与えられている家もあります。しかし、それも全体から見たらほんの一握りに過ぎません。多くの住居が日中でも人工光に頼るのがまだまだ一般的です。
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