私が見つけたライフワーク(2)

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第14回
キクという山野草は存在しない

人が花とかかわる場面を考えてみると、庭で花を植えて育てるとか、ベランダや室内で鉢の花を観賞するとか、野山で自然の花を眺めるなどが思い浮かびます。また、切り花を買って贈ったり、飾ったりという場面もあります。
その目的はいろいろで、結婚式やイベント・行事、プレゼント、お祝い、お見舞い、自宅の室内や玄関の飾りなどです。
しかし、なんといっても機会、量ともに多いのは葬儀・仏事関係ではないでしょうか? 少なくなったとはいえ、春秋のお彼岸、お盆、故人の命日などには多くの人がお墓にお参りし、花を供えます。また、家の仏壇に花を供えている方も多いと思います。

そして、その花の主役はキク、すなわち菊です。日本の花屋さんで取り扱う切り花の中で、トップスリーは、キク、バラ、カーネーションといわれています。その中でもキクが圧倒的に多く、年間で16億本も流通していて、切り花の流通全体の約4割近くを占めるといわれています。

鉢植えのキクの種が飛んで育ったものです

また、キクは紋章としても使われることも多く、皇室やパスポート、海外の日本大使館、議員バッジから硬貨のデザインまで、まるで国の紋章のように用いられています。日本の国章を明確に定めた法律はないものの、キクはそれに準じる扱いを受けている状態なのだそうです。
それを表す例として、日本の商標法という法律に次のような条文があります。


(商標登録を受けることができない商標)

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

一. 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標

キクの花が使われた紋章に限り商標登録が認められないほど、キクは特別な存在になっているのですね。

50円硬貨の菊のデザイン
パスポートの菊の紋章

このように、キクは日本の生活に溶け込み、国の象徴花としても深くわれわれの心の中に根ざした存在になっています。

ところが、畑や人家近くを除き、秋の野山で普通のキクは見当たりません。試しに山野草と名のつく図鑑を見てください。何々ギクという名前の花は多くありますが、キクという山野草は載っていません。
なぜなら、今流通しているキクの花は、もともと日本にあったものではないとされているからです。
一般的な説では、奈良時代に最初から園芸植物(実際には薬草として)として中国から入って来たとされています。

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