第36回
ハボタンは出世した?
2017.01.14 [西原 升麻]
冬になると園芸店にハボタンが並び始めます。めでたいから正月飾りにも使われます。ただ、ハボタン自身が元々めでたいわけではなく、ボタンの花がめでたいとされていたのです。ボタンは牡丹の音読みで、大きく立派な花だったため、中国では昔から大事にされ、百花の王と呼ばれていました。別名富貴花とも言われ、昔からおめでたい花なのでした。
小さいときはボタンと言うよりバラの雰囲気ですが…
中国原産のボタン、日本でも昔からの花で、古くは蜻蛉日記の中でぼうたん草と表現されています。不思議なのは華やかな花の様子ではなく、花の散った風情無い様子を述べていることです。当時はまだ珍しく貴重な花だったのに、美しさではなく惨めな姿しか心に残らなかったとは…。作者は心が疲れていたのでしょうか?
本物のボタンの花
ボタンに似ているハボタン
江戸時代になると、ボタンの改良は進み、冬にも咲く寒ボタンも出て来たようです。めでたい花なのでお正月にふさわしいのですが、冬のボタンは貴重すぎて普及しなかったようです。
そんな折り、西欧からある植物が江戸にやって来ました。貝原益軒は大和本草で紅夷菘(ヲランダナ)と紹介し、ダイコンの類ではなくカブに似ているがそれとも別物だと書き記しています。味ヨシと言うので食用だったようです。その後ボタンの花に似ていると感じたのか、山岡恭安の本草正正譌ではハボタンの名前が見られます。最近のものは小さいときはバラの花にも似ているのですが、当時は季節から考えてもバラよりボタンだと思えたのでしょう。
ハボタンも品種豊富になりました
日本人の感覚でピンと来るものがあったのか、その後野菜よりは観賞に耐えうるように改良されて、ボタンより手軽に正月飾りとして活用され始めたと言います。葉の様子がボタンの花に似ているからハボタン。確かにボタンの感じはします。花びらが幾重にも重なって豪華なイメージは充分伝わって来ます。
育てるのが簡単で、しかも数多く作る事が可能だとなれば正月に活用しない手はありません。今ではお正月の定番にまでなり、品種も増えました。
ナノハナに似たハボタンの花
ハボタンは葉を観賞の対象とするので、春になって背が伸びて来ると、終わりとされ処分されます。でもそのまま育てると、ちゃんと花が咲くのです。薄い黄色でナノハナに似て、種も普通に出来ます。しかし、種のその先は問題があります。種を蒔いても同じハボタンには育ちません。
出来た種から育ったハボタン
これは、動物で言えば馬とロバの間に出来るラバのように少し離れた種間で交配して出来たものだからです。組合せによっては両方の良いところだけを併せ持つ植物になります。しかしそれは通常、次の世代には引き継がれません。一代限りなのです。だからfirst filial generation 一代目の雑種=F1と呼ばれます。このハボタンはF1種だったようです。
ハボタンの学名はキャベツと同じBrassica oleracea だからハボタンはキャベツの仲間です。ついでに言うとハボタンの原種は青汁の原料となるケールの仲間とされます。それから玉になるようなキャベツが出来、ツボミを食べられるように改良したブロッコリ、それを更に改良したのがカリフラワー。そして脇芽を食べるのがメキャベツ、茎を食べるのがコールラビです。
花が咲き始めた畑のブロッコリ
スーパーで売られていたメキャベツ
仲間のうちで唯一観賞植物として進化したハボタンも多くの野菜と同じようにF1種が主流だと言います。出来た種を蒔いて育ったハボタンは、売られているもののようには形が整いません。でも色も良く自由に伸び伸びして、なにより元気そうに見えるのでお正月にもこのままで充分な感じもします。
ハボタン自身はどちらが良いのでしょう?
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