第6回
孫に事業を継がせたい(後編)
2012.02.14 [平田 統久]
(前回紹介した事例の続きです)
孫に将来の後継ぎになってほしいと願うオーナーに対して、私は以下の通り提案しました。
『私が役員(娘婿)と一緒に、お孫さんにお会いし、「家族会議」を開いて、今の会社の状況とオーナーの想いをお伝えしましょう。その上で、お孫さんからご回答をいただくのは如何でしょう? それで実現困難となれば次の手を考えましょう』
オーナーの了解を受け、私はすぐさま、役員(娘婿)に連絡し、お孫さん(以下、ご長男)が「家族会議」に参加するように手はずを整えてくれるようお願いしました。議題は事業承継についてであり、可能ならば、ご夫妻で参加されるように申し添えたのです。
祖父や父の苦労に理解示す
家族会議は、ある都市のレストランで行いました。参加者は、役員(娘婿)、ご長男夫妻、それと私を含めた二人のコンサルタント。まず、私からご長男に以下を伝えました。
○会社の業績と現状。父上が社長をサポートしていること。
○非常に優良な企業であること。
○社長が万が一の際、自社株の承継等に役員(娘婿)の後継者の存在が重要であること。
ご長男に、社長から以前、継がないかと言われて断ったという認識はありますかと尋ねてみると、「誘いだと思わなかった」とのこと。そして、こう続けました。「あの時は分からなかったが、社会人になった今、祖父や父の苦労が分かるようになったと思う」と。
この瞬間、私は脈があると感じ、事業承継に挑戦することのやりがいと困難さを2時間ほどかけて説明し、最後に、「お父様が会社を継ぐにしても、そのお父様の次の後継者を決めることが必要。1ヶ月程度お考えいただき、後継者への道を進むか否かの判断をお願いしたい。今お勤めの会社のこともある。そして、その結果を、年末の帰省に合わせて開催する家族会議でお聞きしたい」とお願いしました。そして、会議の終わりを言おうとしたまさにその時、思いもかけない言葉がご長男から発せられたのです。
凛とした決意表明
ご長男は、「平田さん、ちょっとよろしいでしょうか?」と私の言葉を遮ると、同席した奥様に目線を合わせ、意思確認をするように頷きました。そして、それにゆっくりと頷き返す奥様。
ご長男と奥様は、お父様と我々に向かい直して姿勢を正し、ゆっくりと一言一句確認するように話を始めたのでした。
「今日、この場で、このお話を受けさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。家族会議では、このようなお話になるのではと予測していました。妻とも時間をかけて相談し、結論を出しました。私が、後継者の器かどうかは分かりませんが、祖父と父を全力で支えて参ります。よろしくお願いいたします」
お父様も事前に聞いておられなかったようで、心底驚きつつも、喜ばれていました。私も、凛とした長男氏の決意表明に感動すら覚え、祖父の血が「お孫さん」にも流れていると確信しました。
「家族会議」という場の力
後にお聞きしたところ、長男は、「家族会議」という場が、私のような第三者が入った上で開かれるという点で、「お家の一大事」であると、より強く意識されたとのことでした。祖父の体調が悪いのかと心配されていたともおっしゃいました。
長年この仕事をしていると、「家族会議」という場のパワーを感じることが幾度となくあります。特に、近親ゆえに伝えにくく、理解し合うことが難しくなっている状況でも、第三者が入ることで、客観的に物事を捉えやすくなり、正確に意志が伝えられることがあります。
もちろん、この方法がいつもうまくいく訳ではなく、逆に紛糾につながることもありますが、互いの想いをぶつけ合ったのであれば、次善の策を考えることもできるはずです。
この話は後日談があります。ご長男の入社を機に、オーナーは勇退し、役員(娘婿)に社長の座を譲りました。現在、ご長男は社長を支えながら、「後継者の器」になるべく精進されておられるとのことです。
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