第3回
自社株を相続する際の留意点(1)
2011.12.20 [平田 統久]
会社が順調に成長し、運良く後継者となる子供に恵まれても、会社経営にはさらなる障壁が立ちはだかります。相続税や遺産分割の問題です。
会社の内容が良くなればなるほど、オーナーの個人財産は大きくなります。オーナーに相続が発生すれば、オーナーの個人財産に相続税がかかります。
個人の財産に相続税がかかるのは当然なのですが、その財産の中には「自社株」が含まれています。その会社の経営権の維持を考えると、自社株は通常、後継者が相続するのが望ましいので、大半を後継者が相続することになります。内容の良い会社は、一般に自社株の評価額が高くなりますので、その評価の高い自社株の分も含めて相続税を払うことになるのですが、この金額が馬鹿にならないのです。
普通の相続であれば、もらった財産に対して最高でも50%の税率ですから、財産以上の税金がかかることはないのです。したがって金融資産であれば、そこから払えばよいし、土地などであれば売却して現金化して払えばよいということになります。もらった財産は少なくとも半分は残ることになるわけです。
自社株評価額は数億円以上にも
しかし、財産の中に非公開の自社株があると、その株は公開会社(※本コラムは非公開の中小企業の事業承継を前提にしています)と違い、市場で売却し現金化するわけにもいかないので、自社株以外の財産の中から税金を払わなければなりません。
優良な会社の自社株評価はすぐに数億円を超えてきますので、金融資産を全額投入しても足りないというケースが出てきます。
自社株を現金化する手法として、金庫株といって、その会社自体が自社株を買い上げることができるのですが、それをやるとせっかく積み上げた会社の内部留保を放出することになります。これは財務的にみると、超大口の貸し倒れの発生に匹敵します。しかも損金処理できないので、まさに相当な財務ダメージを受けるのと同じです。
さらに承継者の株式持分が低下してしまうので、会社の経営権も弱まってしまうことにもなります。したがって自社株を現金化する手段はあっても、それをやると別の問題が起こるという痛し痒しの状態になるのです。
戦後の民法改正で家督相続が廃止され均分相続となり、戦後育ちが増えてくるにつれて、遺産分割をめぐる紛争も増加してきました。昔は親族同士じっと我慢であったのですが、今は法律で兄弟姉妹は均等と認められているのだから、権利は主張しなければ損という風潮に変わり、それが事業承継の分野にも影響を及ぼしてきているのです。
自社株についてではありませんが、あるオーナーから下のような境遇を聞かされたことがあります。店舗の相続で、事業承継者とそれ以外の親族との遺産分割でもめたケースですが、自社株の相続においても、同様の構図が起こりえるのです。
あるオーナーの境遇
老舗の料亭の三代目の若旦那。父は弟と妹と一緒に幼少期から家業を支えたが数年前に逝去。父の現役時代、祖父の相続発生の際、父が事業承継者の名の下に祖父の現金財産を独り占めし、弟と妹をないがしろにした。しかし、店舗不動産は評価が高額であったため、祖母が相続していた。その祖母が逝去し、相続が発生。遺産分割協議に臨むも、叔父と叔母は均等分割を主張して譲らず、「俺達には事業継続は関係ない。料亭を廃業して不動産を売却してほしい」と迫っている。銀行から借金して不動産価値に見合う現金を払うこと(代償分割)にしようにも、料亭の業績が低迷し、返済原資が確保できないため銀行融資が不可能。若旦那は廃業の窮地に追い詰められている・・・
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