第6回
マイナス思考の加齢学に終止符を打て
2011.06.21 [内山 悟志]
一時代前のジェロントロジー(加齢学または老年学)では、「加齢」は衰えることを意味していた。しかし、エイジレスライフという新しい枠組みで再定義すると、加齢すなわち成長と成熟は年齢を問わず継続するものであり、その段階ごとにさまざまな挑戦と特徴的な消費行動が存在する。
脳科学の観点からも見直される加齢学
1970年代頃までのジェロントロジー(加齢学または老年学)では、「高齢は病気の1つである」という考え方が主流であり、歳を重ねるということは、何かを失っていくこと、衰退することとして捉えられていた。脳科学の分野においても、脳は新しい神経細胞を生成することはなく、再成長はしないと考えられていた。しかし、その後の研究によって記憶の形成を司る海馬、熟考や感情の制御を司る大脳皮質において成人となったあとでも新たに細胞が生成されることが分かってきた。また、年齢を重ねていくと脳の多くの場所を活用するようになるという研究結果も出され、脳の発達は年齢を問わずに継続するものであると考えられるようになった。
ジョージ・ワシントン大学加齢健康人文科学研究センター所長であるジーン・D・コーエン博士は、著書「いくつになっても脳は若返る」(ダイヤモンド社)で、認知力、感情的知性、判断力、社交力、人生経験、意識の各要素が成熟した状態、またこれらの要素が統合され相乗効果を発揮した状態を「発達性知能」と呼び、年齢を重ねるにつれてこれらの要素は成熟し続けると述べている。年長者が自分史を書きたくなったり、語学をゼロから勉強したくなったりする挑戦意欲は、この発達性知能と関係していると説明している。昨今では、このような年長者の衝動、欲求、探究といった行動とその原動力となる脳の発達・成長の関係が着目されるなど、加齢のマイナス面だけに注目した古典的な考え方に終止符がうたれたといえよう。
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