第22回
電子書籍で自分史を作る
2012.04.03 [内山 悟志]
通勤中の電車で電子書籍を読む姿がちらほらと見られるようになった。前回述べたエイジレスライフ世代の情報発信の1つの手段として電子書籍による出版がある。無償で電子書籍を作成できるサイトなども登場し、出版が手軽に行える時代が到来している。
エイジレスライフ世代と電子書籍の相性
電子書籍による自分史の出版について述べる前に、エイジレスライフ世代にとって驚くべき研究成果を紹介しよう。ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学のStephan Fussel博士などの研究チームが発表した「高齢者は、紙の本よりもiPadで読む方が速く読むことができる」というものだ。
この研究では、若者と高齢者の2つのグループに分かれた被験者を対象に、iPad、EインクリーダーのKindle3、紙の本、の3種類の媒体で様々な種類や難易度のテキストを読んでもらい、読者の視線の動きや脳活動の様子を測定し、テキストの理解度や情報の記憶度などを多角的に検証したという。その結果、若者の読書スピードはどの端末でもほとんど変わらなかったのに対して、高齢者に限ってはiPadを使ったときに他と比べて速く読むことができたというのだ。ほぼ全ての被験者が紙の本で読むことを最も好んだにも関わらず、実験によって得られたデータは全く異なるものだったことを示している。Fussel博士は、「紙の本に対する主観的な好みは、情報の処理がいかに速くて優れているかを示すものではない」と分析している。
紙の本の方が読みやすいと思っている人は多いと思われるが、読む速度や理解の度合いはiPadの方が優れているということだが、高齢者にだけその傾向があらわれているというのが意外だ。iPadの優位性としては、文字の大きさを変更できることぐらいしか思いつかないが、それ以外に何か心理的要因があるのだろうか。電子的な文字はテレビの字幕などで早く読むのに慣れていて、紙の本はじっくりと読むものだという意識が知らず知らずに働くということなのか。これについては、今後のさらなる研究を待ちたいが、確かにパソコンやキーボードに苦手意識を持つ高齢者が、タブレット端末の直感的なユーザー・インタフェースには好感を持つのはよく見られることである。
コメント