第18回
瀬戸内のアートの島を訪ねる
2014.05.26 [内山 悟志]
2つ目の見どころは「家プロジェクト」だ。島内の中心集落である本村(ほんむら)周辺で、使われていない古民家を修復するなどして、現代美術の作品として恒常展示している。1998年から2006年にかけて制作され、現在7カ所が公開されている。
大竹伸朗氏による家プロジェクト「はいしゃ」の建物内の自由の女神のオマージュ作品
いずれも半径300mぐらいのエリアに集中しているため、歩いてすべてを見て回ることができる。
それぞれには、「角屋」「南寺」「はいしゃ」などかつての屋号や寺社など建物に由来した名前がつけられている。
本村地区は、300年ほど前から栄えていた地域で、黒い板張りの古民家が立ち並んでおり、古い町並みの独特の風情が今でも残っている。また、こうした古い民家を利用した個性的なカフェや食事処が多数点在しているため、休憩しながら散策するにも打ってつけである。
さて3つ目の見どころは、「ベネッセハウスミュージアム」「地中美術館」「李禹煥美術館」の3つの美術館である。ベネッセハウスミュージアムは、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、美術館とホテルが一体となった施設である。地中美術館は建築家の安藤忠雄氏が設計した美術館で、瀬戸内の美しい景観を損ねないよう建物全体が地中に埋設されている。地下でありながら自然光が降り注ぎ、作品と建物が表情豊かな空間を演出している。李禹煥美術館は、国際的評価の高いアーティスト・李禹煥氏と建築家・安藤忠雄氏のコラボレーションによる美術館で、半地下構造の建物のなかには、李禹煥の70年代から現在に到るまでの絵画・彫刻が展示されており、幻想的な空間となっている。
このように直島には、アートがあふれている。主にアート作品が展示されている島の中部・南部は自転車やバスで巡ることができる。筆者は、半日500円のレンタサイクルを借りて回ったが、アップダウンが大きいところが何か所かあるため、脚力に自信の無い人は電動アシスト自転車かバスを利用することをお勧めする。
豊島横尾館の概観
2日間の直島滞在を終え、次に豊島に向かった。直島の宮浦港から豊島の家浦港までは高速艇で約20分だ。豊島にも、豊島美術館などいくつかの見どころがあるのだが、今回は乗り換えのための約1時間の滞在時間しか避けなかったため、家浦港から徒歩5分の豊島横尾館だけ訪問することができた。豊島横尾館は、アーティスト・横尾忠則と建築家・永山祐子が集落の古い民家を改修して作ったもので、石庭と池、平面作品などが不思議な空間体験を作り出している。
今回は、豊島の他の地域と犬島に足を運べなかったのが心残りだ。しかし、短期間でこれほど多くのアートに触れたのは初めての体験といえる。作品の数だけなら都内の美術館をいくつか廻った方がたくさん観られるかもしれないが、それとは違った充実感があった。これは、瀬戸内の温暖な気候、澄んだ空、美しい海、情緒ある街並み、のどかな風土などが組み合わさって実現されているものであり、まさに芸術に包み込まれているような心地よさを味わうことができた。エイジレスライフの心の潤いとしてお勧めしたい旅先といえる。
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