第20回
寄席で江戸前の笑いを楽しむ
2014.06.26 [内山 悟志]
一方、定席の寄席でない劇場やホールで開催される落語会はホール落語などと呼ばれる。独演会、二人会、一門会など一定の人気や実力を持つ落語家が会場を借りて公演するのが一般的なホール落語だ。ホール落語は寄席と違って基本的に指定席で、演劇やコンサートと同じように、チケット販売サイトなどで前売り券を購入する。演目は基本的にすべて落語で、寄席と違って漫才、奇術などの色物は出演しない。
ホール落語は、全体で2時間程度の長さであるが、プログラムの内容はさまざまだ。例えば、独演会の場合、最初にお弟子さんなどの若手が20分程度の落語を一席やってからメインの演者にバトンタッチして一席、15分程度の休憩を挟んでもう一席メインの演者が登壇するといった形が多い。メインの演者は一席につき40~50分と長く、寄席ではかけられない、あるいはかけても省略したり、途中までで終わらせてしまったりするような大きな演目を最後まで聞くことができる。
寄席とホール落語は、楽しみ方が異なると考えた方が良いかもしれない。ちなみに筆者はどちらも好きだ。何も予定のない週末などは、ふらっと寄席に出かける。筆者のお気に入りは新宿末広亭の二階の桟敷席だ。寄席は、早い時間帯は比較的若手が出演し、だんだんとベテランが出てくる。飲食自由・持ち込み可(中にはアルコールも可)のところもあるし、売店に売っているお弁当を食べながら昼過ぎから夜までのんびりと過ごすのも楽しい。漫才や太神楽(曲芸)など出し物もバラエティに富んでいて飽きない。大衆の娯楽として気軽に落語を楽しむなら寄席がお勧めだ。
一方、芸能(あるいは芸術)としての落語をじっくりと楽しみたい場合や、贔屓の噺家さんがいる場合はホール落語が良い。力量のある噺家がじっくり聞かせる落語は、さながら一流の演劇や映画のようにドラマチックだ。例えば、2011年の柳家喬太郎独演会(亀戸寄席)で演じられた「おせつ徳三郎」では、客の何割かが泣いていた。
落語の楽しみ方は人それぞれ異なるだろうが、筆者が考える落語の魅力は一言でいうと「最も少人数で表現する総合芸術」という点だ。落語は、多いときは数十人にも及ぶ登場人物、海や風の音、そして景色までもすべて一人が演じて表現する。これからの季節、寄席に涼みに行くのも良しだ。
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