第24回
シニア居酒屋、震災後の再チャレンジ
2012.12.25 [松本 すみ子]
2010年5月、宮城県仙台市に居酒屋「井戸端会議」がオープンしました。実は、この居酒屋、シニア世代が集うNPOが始めたものなのです。画期的なアイデアが多くの関心を呼び、NHKをはじめとした多くのメディアに取り上げられ、経営は順調に滑り出したと思われました。そこに、2011年3月11日、東日本大震災が起きます。当然ながら、来店客は激減。店の存続は難しくなりました。
しかし、メンバーはあきらめませんでした。2012年末、シニア居酒屋「井戸端会議」は新たな方式で復活することを決定。今回は、震災にめげずに頑張る東北のシニア市民の姿を紹介します。
シニア世代から出資金を募る
シニア居酒屋を思いついたのは高橋義信さん(69歳)。皆でビジネスアイデアを出し合って、いいものがあれば協力して事業化を進めようという趣旨で設立されたNPOのメンバーでした。
高橋さんはずっと、シニアのための居酒屋をつくりたいと考えていました。会社や子育てから解放された人たちに、新たな出会いと社交の場を提供することで、新たな何かを生み出すきっかけにしたい。そのためには「気軽に立ち寄れてオープンな雰囲気の居酒屋がいい」と思ったのです。このアイデアは数ある提案の中から第一号ビジネスに選定され、念願の事業がスタートできることになりました。
しかし、市民活動に潤沢な資金はありません。そこで思いついたのが、一般から出資金を募る方式。50歳以上であれば誰でも、個人は2万円、夫婦なら3万円の会費を納めれば利用できる会員制システムを取ることにしました。出資した会員は5名まで同伴者を連れてくることができます。同伴者には年齢制限がないので、会員と一緒であれば子や孫、会社の部下や同僚などの若い人も利用できます。
説明会と内覧会を何度も開催したこと、ユニークなアイデアがマスコミに取り上げられたこともあって、オープン時には250名以上の出資者から開店資金約400万円を集めることができました。多くのシニア世代が同じ思いを持っていたということでしょう。
東日本大震災の影響で客が激減
ところで、NPOが居酒屋を運営しているというと、多くの人は驚きます。「NPOで、そんなことをしてもいいの?」「お金儲けはだめなんじゃないの?」などなど。結論から言えば、問題はありません。
NPO法では、NPOが手掛けることのできる活動を20分野に定義しています(別表参照)。「井戸端会議」の趣旨を検討すると、その活動は少なくとも、「1 保健、医療又は福祉の増進を図る活動」、「3 まちづくりの推進を図る活動」、「4 観光の振興を図る活動」、「6 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動」、「16 経済活動の活性化を図る活動」、「17 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動」に該当します。NPO活動は意外に柔軟性があるということがわかるでしょう。
NPO活動の20分野
1 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2 社会教育の増進を図る活動
3 まちづくりの推進を図る活動
4 観光の振興を図る活動
5 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
6 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
7 環境の保全を図る活動
8 災害救援活動
9 地域安全活動
10 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
11 国際協力の活動
12 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
13 子どもの健全育成を図る活動
14 情報化社会の発展を図る活動
15 科学技術の振興を図る活動
16 経済活動の活性化を図る活動
17 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
18 消費者の保護を図る活動
19 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
20 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動
NPOの事業ですから、会員による運営が主体です。店舗探しも、店舗の設計も会員が助けてくれて、格安に出来上がりました。お客さんはもちろん、店長の高橋さん、料理長や店員も会員です。店には「私にもやらせて」という人が集まってきました。
中には、お店を出したかったという女性たちも。そこで、お客さんに自分の料理を振舞うのが夢だったという人たちが担当する日を作りました。おふくろの味を楽しめるお客さんは大満足、そして作っている人も料理をほめられて、生き生きと働くことができます。仙台に単身赴任しているサラリーマンなども来店するようになり、そんな人々との語らいの場として、高橋さんにもかけがえのない場所となっていきました。このまま順調に伸びていけば、報酬もきちんと払えるようになるはずでした。
(ここまでの詳しい内容はアリアの最新ニュース(※)で読むことができます)
そんな矢先、東日本大震災が起きます。客足はぱたっと落ちました。世の中が外食や飲酒などをしている状況ではありませんから、当然です。共益費を含めた毎月の家賃25万円の支払いが重くのしかかります。とうとう2011年末をもって閉店することを余儀なくされました。
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