名医に聞く

バックナンバー

第16回
〈痛風〉 一生の病気。根気よく治療することが大事

尿酸値を下げる治療と同時に生活習慣病の治療も必要

治療のメインは高尿酸血症を是正することだ。しかしながら、闇雲に高尿酸血症を治療してはいけない。

「関節炎を起こしている最中に尿酸値をやたらと変動させたりすると、不思議なことに、かえって関節炎がひどくなったり、関節炎の治りが悪くなったりします。
ですから痛風発作を起こしたら、すぐに高尿酸血症に対する治療はしないで、まずは鎮痛剤や消炎剤を使って関節炎を抑え、落ち着いたところで高尿酸血症の治療をはじめるというのが原則です」(同)

服薬とともに、生活習慣の是正も重要だ。

「なぜかというと、痛風関節炎は大変痛くてつらい病気ですが、命を脅かしたりはしません。痛風の患者さんが命を落とすのは、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血、腎不全といった病気によることが多いのです。腎臓はもちろん尿酸が沈着してくると腎障害や、尿路結石も起こします。しかしそれ以外にも尿酸値が高い状態がつづくと、高血圧、高脂血症、糖尿などいろいろな生活習慣病を合併しやすくなりますし、動脈硬化が進んだりします。
ですから、尿酸値をきちっと下げるとともに生活習慣を是正して高血圧や高脂血症も同時に治療していかないといけません」(同)

さらに重要なのは、長く、根気強く治療することだ。

「患者さんの多くは、痛かったり、つらかったり、なにか苦しいことがないと、熱心に病院に通ってきません。
痛風の関節炎は自然にほうっといても治まり、そのあと痛くもなんともない時期があります。すると病気は治ったと勝手に解釈して、薬を止めてしまったり、通ってこなくなる場合が少なくありません。結果、腎障害や動脈硬化などが悪化してしまい、かなり合併症がひどくなってから再度やってきます。それでは遅いんです。
やはり症状がないときにもきちっと藥を飲み、生活習慣を守らなければいけません」(同)

とはいえ、薬をしっかり飲み、正しい生活習慣を守るのは、なかなかむずかしい人もいるのではないだろうか。

「治療で一番むずかしいのは、患者さんが根気よく続けてくれるようしむけることです。どんなにいい治療でもやめられてしまったらもともこもありません。
ですから私は、病気のなりたちや合併症の怖さ、生活習慣についてなど、患者さんとよく話し合い、納得してもらうことを大切にしています。
無理強いすることが生活指導ではないと私は考えています。厳格な生活習慣を患者さんに押し付けると多くの方が脱落してしまう。
むしろ週2、3回、少しぐらいならお酒を飲んでもいいですよというふうにしないと。
痛風は一生の病気。一番発症率が高い年代は30歳代ですが、あと何十年も働かなきゃならない人に仕事も人生も面白くないといわれても困りますからね」(同)

なるほど、長い付き合いになる痛風の治療は、一人の人間としての自分を分かってくれる医師に出会うことが一番重要なのかもしれない。

名医のプロフィール

痛風の名医

細谷龍男(ほそやたつお)

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科 教授 診療部長
東京慈恵会医科大学卒業、同大学院卒業、同第二内科講師、同第二内科助教、同第二内科教授を経て、2000年 講座改編により、同内科学講座(腎臓・高血圧内科)教授、現在に至る。
主な研究分野は、腎臓病学・痛風・尿酸代謝
日本内科学会理事、日本腎臓学会理事、日本痛風・核酸代謝学会理事長、日本宇宙・環境医学会理事。

コメント