名医に聞く

バックナンバー

第2回
〈前立腺肥大症〉治療法はさまざま。病院選びは、術後の経過までしっかり調べて。

診断で重視なのは大きさよりも残尿量

ただ、前立腺が肥大していればただちに病気、というわけではないという。

「前立腺肥大症の治療ガイドラインでは、サイズを点数化していて、大きさを手術の判断要素としていますが、あまりあてにできません。

なぜなら、ものすごく大きくなった前立腺でも排尿障害のない人はいるからです。これは川の流れに似ていて、腫れている位置によっては、スムーズに流れる場合があるからです。ですから、治療を要する病気かどうかの診断には、患者さんの自覚症状やQOL(生活の質)に支障があるか否かが重視されます。

手術の適応を決める際、我々が重視しているのは残尿です。残尿が多い方は、細菌感染や膀胱内の結石、膀胱の平滑筋に対するダメージをきたす等々の合併症を起こすリスクが高いので手術します。また、それらがこうじると尿閉症といって、完全に尿がとまってしまう状態になりますので、その場合には、絶対に手術が必要です」(同)

手術の適応も含め、治療のための診断に際しては、前立腺指診、超音波検査、内視鏡的検査、尿流測定、残尿量測定のほか、前立腺がんとの鑑別を目的とするPSA(前立腺がんの場合、高い数値になる)腫瘍マーカーテストなといった検査を行う。

「排尿障害を起こす病気には、前立腺肥大症のほかにも尿道狭窄、前立腺縁炎、前立腺がん、膀胱頚部硬化症があるため、見誤ったり見逃したりしないよう注意が必要です」(同)

より低侵襲へ 注目されているのはレーザー治療だが・・・

治療の第一選択肢は、薬物療法とされているが、その効果を、黒田医師はあまり評価していない。

「現在、前立腺肥大症用の飲み薬はずいぶんたくさん出ています。ただ、私としては、デュタステリド(商品名:アボルブカプセル)以外は、ほとんど効いていないように感じています。というのも、薬を飲んでいても何年か経つと前立腺が大きくなり、結局手術になるケースが圧倒的に多いからです」(同)

薬の効果が十分に見られない場合には手術療法が考慮される。尿道から内視鏡を入れて肥大した部分を削るように切除する経尿道的前立腺切除術(TUR-P)が世界的にも標準の術式とされている。

また最近は、より出血が少なく、合併症を起こす可能性も低い低侵襲な治療法として、レーザーによる前立腺核出術(HoLEP)や前立腺蒸散術(HoLAPまたはPVP)が多く行われるようになってきている。

前立腺核出術とは、肥大した部分をホルミウム・YAGレーザーでくりぬき、それを膀胱のなかで特殊な機器を用いて細切・吸引する方法。前立腺蒸散術は、ホルミウム・YAGレーザーやKTPレーザーを肥大した組織に照射して蒸散させる方法だ。

「ただ、私は直接標的臓器に触ることが重要だと思っているので、レーザーではなく内視鏡による治療を行っています。排尿障害というのは少なくとも、前立腺が大きいということだけでは起こらないので、患部の組織の硬さを見たいんですよ。レーザーでは判りません」(同)

ちなみにこの頃、日帰り手術を実施するところが増えているが、術後の出血や尿路感染症のリスクを払拭しきれないという理由から黒田医師は反対している。

「日帰り手術はお勧めできませんね。なぜなら手術というのは、術後のメンテナンスが非常に大事だからです。尿路感染症の予防には、点滴で尿を増やす必要がありますしね。手術自体も、経過を見なければ、本当に成功したかどうかは判らないものなんですよ。その証拠に、私のところには、他の病院で治療をしたけれどよくならないという患者さんが大勢きています」(同)

前立腺肥大の治療には種々の選択肢がある。それぞれにメリットやデメリットがあり、どれがベストかは、医師によっても患者個人の状況によっても変わる。患者としては、術後の経過も含めて評判を調べ、さらにインフォームドコンセントをしっかり行ってもらった上で、納得して治療に臨むことが重要なのではないだろうか。

名医のプロフィール

前立腺肥大症の名医

黒田 俊(くろだ・しゅん)

医療法人 森と海 東京 黒田病院 院長/医療法人 森と海 理事長
昭和27年(1952年)生まれ。
1979年 東京慈恵会医科大学卒業。同大学外科研修医、聖マリアンナ医科大学助手、聖マリアンナ医科大学医長(泌尿器科)、聖マリアンナ医科大学非常勤講師(泌尿器科)、黒田病院副院長を経て、2004年より現職。
前立腺肥大症はじめ、排尿障害に関する疾病の治療で高い評価を得ており、2010年の手術件数は93件。また、尿路結石の治療にも定評があり、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は過去15年間に3155件実施。

コメント