名医に聞く

バックナンバー

第21回
あいまいな症状でつらいときには甲状腺疾患を疑おう

甲状腺にできる腫瘍は圧倒的に良性病変が多い。
そこで良性腫瘍と確定診断できれば放置していても問題はないが、大きくなったものに対しては、PEIT (ペイト)という治療法が効果をあげている。
これは、アルコールの一種であるエタノールを注入することによって腫瘍を壊死(えし)させる治療方法。腫瘍に直接注入して壊死させる手段と、血管に注射して腫瘍に送られている養分を抑えるという、2つの方法がある。

甲状腺の悪性腫瘍=がんは、顕微鏡所見から4種類に分けられる。乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様がん、未分化がん、がある。

濾胞がんは頻度が低いものの、肺や骨に転移をする場合があるので診断には細心の注意が必要。
髄様がんは甲状腺がんのなかでも1~2%と、さらにまれな疾患。特殊ながんで、遺伝性のものとそうでないものがある。副腎の褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症など、ほかの内分泌腺の病気と合併する多発性内分泌腺腫瘍症(MEN)もある。
未分化がんは、最も頻度が少ないものの、きわめて危険ながんである。体中、広範囲に転移することが多く、放射線治療、化学療法を併用して治療するが、それらもなかなかかなわず予後が非常に悪い。

これらに比べ、進行が遅く、おとなしいのが乳頭がん。甲状腺がんの9割以上を占める。

「がんの治療成績については5年生存率という言葉を耳にされるかと思いますが、伊藤病院では25年生存率までを調べています。当院で手術した方については2000人近くをきちんとフォローアップしておりますが、乳頭がんでなくなる方は20年経っても10%もいません。専門病院であれば、そのぐらい正確に治療できるがんですのでご安心ください」

乳頭がんの治療は、なんといっても手術が基本。最近は縮小手術といって、エビデンスに基づき、健常な部分を出来るだけ残し、切除は必要最小限にとどめる手術が主流となり、患者さんの負担も軽くなってきた。

早期発見には、患者が能動的になるしかない

甲状腺疾患は治せる病気だが、残念ながら予防法はない。

すべての疾患が軽いうちに治療を始めたほうが当然治しやすいので、早期発見・早期治療が大切である。「なんだか具合が悪いと感じた時には、甲状腺疾患も疑って欲しい」と伊藤医師は繰り返す。

それにしても、40歳以上の女性の10人に1人ぐらいはかかるといわれるほど多い病気なのに、自治体の健康診断でも、人間ドッグでも、検査項目に入っていないのは問題だ。

「早期発見には、患者さんの方から能動的に動いてもらうしかありません」

確かに。自分の体は自分で守る心構えを持ちたい。

名医のプロフィール

甲状腺疾患の名医

伊藤公一(いとう こういち)

国内屈指の甲状腺疾患専門病院・伊藤病院の3代目院長。1958年生まれ。北里大学医学部卒業、東京女子医科大学大学院修了。医師になって以来、国内外にて一貫してバセドウ病、橋本病、甲状腺がんなど甲状腺疾患に対する診療と研究に従事。
東京女子医科大学・筑波大学大学院 外科学教室 非常勤講師。日本医科大学 外科学教室 客員教授。主な著書に、『甲状腺の病気の最新治療―バセドウ病・橋本病・甲状腺腫瘍ほか』(主婦の友社 2011)、『伊藤公一のバセドウ病と診断されたときにまず読む本 (名医の最新治療)』(主婦の友社 2010)、『スーパー図解 甲状腺の病気―速やかな回復のための最新知識』(法研 2009)がある。

コメント