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第13回
〈脳卒中〉(2/2) 寝たきり原因トップの疾患 治療法や薬は加速度的に進化中

脳梗塞には治療の新兵器や新予防薬があいついで登場!

脳梗塞の治療では、メルシーリトリーバー(頭蓋内血栓症除去カテーテル)という治療器具が昨年10月に保険適用になった。脳血管に詰った血栓をらせん状のワイヤーで絡め取って回収する器具だ。脳梗塞治療では、t-PAと呼ばれる血栓溶解剤薬2005年に保険適用になり、画期的な効果を上げてきた。しかし「発症後3時間以内に用いなければならない」制約や、太い血管が詰った場合には効かないという弱点もあった。

メルシーリトリーバーは、発症8時間以内まで使うことができるので、t-PAを適用できない患者の治療法として注目されている。

「血栓を物理的に取り除くメルシーリトリーバーは、t-PAでは溶かしきれなかった大きな血栓の回収に力を発揮すると思っています。ただ血管を破り出血することが一定の割合でありますが」(水谷医師)

頭蓋内ステントもメルシーリトリーバーも最初はパイロット施設での導入で、広まるには1-3年はかかるだろう。

「われわれの施設は、評価が安定してからになると思いますので,導入はまだ先になると思います。また今後は、ペナンブラというものが出てきます。近いうちに認可されるでしょう。これは血栓を強力な吸引で除去しますので、メルシーで強引に機械的に回収するより、血管に優しいと思います」(水谷医師)

今年1月には新たな予防薬として抗凝固薬のダビガトラン(商品名プラザキサ)が承認された。「血液サラサラ」状態を保つことで、血管が詰まるのを防ぐ薬だ。なんと、この領域では半世紀ぶりの新薬である。

従来、脳梗塞の予防薬として使われてきたにはワルファリンは月に1度、効き具合をみながら、0.5ミリグラム単位で飲む量の調整が必要だったうえに、ブロッコリーや納豆などビタミンKを含む物に対する食事制限が必要だった。
一方、ダビガトランは、ビタミンKと無関係に直接、血液を固めにくくするため、飲む量の調整が不要なうえ、食事も制限しなくてすむ。

かつて日本人の死亡原因として第1位を占めていた脳卒中。1965年をピークに減少し、現在は死亡原因の第3位となっているが、高齢者が寝たきりになる原因としては首位を譲らない。日本の脳卒中患者数は推定170万人とされ、2020年には300万人に達すると見込まれている。治療法、予防法ともに、今後の一層の進化が望まれている。

名医のプロフィール

脳卒中の名医

水谷 徹(みずたに とおる)

東京都立多摩総合医療センター 脳神経外科部長
脳卒中治療においては、全国でもトップレベルの手術経験を有するエキスパート。
1959年大阪府生まれ。84年東京大学医学部卒、86年同大学脳神経外科入局、総合会津中央病院、日赤医療センターなどを経て、05年より東京都立多摩総合医療センター部長。
主な著書には『動脈瘤と動脈解離の最前線 別冊医学のあゆみ』水谷徹、小島英明編(医歯薬出版2001年初版)、『解離性脳動脈瘤の手術』(脳神経外科エキスパート)『脳動脈瘤』宝金ら編(中外医学社 2009年刊)「ハイリスク症例のCEA * 脳虚血の外科」塩川芳昭ら編(メディカルビュー社2009年刊)などがある。
*注 CEA : 頚部頚動脈内膜剥離術

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