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第29回
顎変形症(がくへんけいしょう)。かみ合せの異常を伴った顔のゆがみやしゃくれは、健康保険と高額療養費制度を使うと10万円以下で治せる

美容整形で外見だけ治しても、かみ合わせはメチャクチャ

病名をパッと見て「顎関節症(がくかんせつしょう)」と思った方は多いのではないだろうか。残念、不正解である。
顎関節症は、あごが鳴る、口を大きく開けられない、あごが痛い…を三大症状とする病気。
一方、顎変形症は、顎骨(がくこつ)の異常によって顔ぼうの変形、咬合(こうごう)の異常をきたす疾患で、顎関節症とは別の病気だ。

あごを構成する上顎骨、下顎骨の大きさの異常、位置の異常、上下、左右のバランスの異常によって、上手くかめない(咬合の異常)、話しづらい(構音障害)などの機能異常が現れるだけでなく、見た目の容貌にも「受け口」「出っ歯」「左右のゆがみ」といった症状が現れ、コンプレックスに苦しむ患者は少なくない。
しかも問題なのは、この顎変形症が、外科手術と歯科矯正を併せた治療によって、健康保険の適用で改善できるという事実が、あまり知られていないこと。

「美容外科やエステの専門家が協力して、容姿のコンプレックスに悩む人をキレイに変身させてあげるテレビ番組がありますよね。
あれにはよく、顎変形症の患者さんが登場します。
美容外科医が手術して、見た目はキレイになりますが、かみあわせのことは全然考えていなので、かみ合せがメチェクチャになってしまいます。
恐らくあの番組に出られた方は、かみあわせが崩れて、満足な食事ができなくなっていると思います。そのほかにも、全身的な不具合が生じていることでしょう。

本来、顎変形症の治療は、1年以上かけて矯正歯科治療をし、10日ほどの入院で手術をし、さらにかみあわせを整える術後の矯正歯科治療をして、3年ほどかけて行います。
美容外科では、100万円以上かけても、見かけだけしか改善できませんが、我々の治療なら、健康保険と高額療養費制度を使えば10万円以下で、見かけもかみあわせも治療ができます。
でも、ほとんどの人はご存じありません」

と嘆くのは、大阪歯科大学附属病院院長の覚道健治(かくどうけんじ)医師。長年に渡って日本の顎関節疾患の治療・研究をけん引してきた第一人者であり、2013年、日本顎変形症学会学術大会の大会長を務めることが決まっている。
かのテレビ番組では、まるで魔法のように短期間で変身し、うれし涙を流す出演者の姿が感動的ですらあるが、覚道医師ら専門家としては、変身後に彼女たちを襲うかみ合わせの不具合や全身の不調を思うと「気の毒で仕方ない」のだと言う。

あごの問題は、外見を手術して簡単に済むものではない。
かみ合わせは、全身の健康に影響を及ぼす。
それなのに、容姿のことなんだからと美容の領域としてだけ捉え、「疾患」だと認識せず、まして「保険で治せる」とは考えもしない人はあまりにも多いのではないだろうか。

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