名医に聞く

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第29回
顎変形症(がくへんけいしょう)。かみ合せの異常を伴った顔のゆがみやしゃくれは、健康保険と高額療養費制度を使うと10万円以下で治せる

単に見かけを治すのではない。かみ合わせを正し、心もいやす

手術には大きく分けて、上顎骨、下顎骨といった骨全体を手術で前後、上下、左右に移動する方法と(骨切り術)、歯を含む骨の一部だけを切って動かし、かみ合わせと容貌を正しく整える方法がある。
全身麻酔下で行い、移動させた骨は人体に為害作用のない材料でできたネジやプレートで固定する。
さらに「顎間固定」といって上下のかみ合わせを固定した状態で、あごの安静が保てるようにして手術を終了。以後、1週間ほどの辛抱の後、固定を外す(ただし、手術方法によっては3週間固定する場合もある)。
基本的にはすべての操作を口腔(こうくう)内で行うため、顔の表面に後々まで残る手術瘢痕(はんこん)を作ることはない。

また手術に際しては、「自己血輸血」といって、手術の1週間前までに患者自身の血の貯血を行い、術中の出血に対処する。
原則として下顎あるいは上顎の単独手術では行わないが、上下顎を同時に行う複合手術では400~800mlの貯血を行うのが一般的だ。貯血は1週間に1回の頻度で、1度に採血できる量は最大で400ml。また、希釈法による自己血輸血も行われている。
これは安全性への配慮だ。

ところで、治療には限界がある。
顔には様々な感覚器官が集中しており、血液の流れが豊富な上に、骨の中にも太い血管や神経が通っているため、切る位置や方向、量には様々な制約や限界があるからだ。
よって、誰もが望みどおりにあごの形を自由に変えられるというわけではない。
見かけだけの改善ではなく、顎顔面の持つ重要な機能の調和を図るのが、顎変形症の治療なのである。

覚道医師は言う。
「顎変形症は、疾患ですが、痛みはありません。しかし、心の痛みは大きい。
治療することは、生活のハリと心のハリをもたらし、元気づけてあげる医療だと私は思っています」

取材の最中、覚道医師から、多くの治療例の写真を見せていただいたが、そのなかには、美容整形とは違って、元の容姿の印象が保たれているものもあった。

「もっと変えることはできますが、患者さんは、これまでの自分も大切にしたいとおっしゃいました。そういう気持ちを尊重しながら、しっかりかめるように治すのも、私の仕事です」

名医のプロフィール

顎変形症の名医

覚道健治医師(かくどう けんじ)

大阪歯科大学附属病院 病院長
1974年3月 大阪歯科大学卒業。 大阪歯科大学口腔外科学第1講座 講師、大阪歯科大学口腔外科学第2講座 教授、大阪歯科大学附属病院 副病院長を経て、2008年4月より現職。
日本顎関節学会(理事長 2012まで)日本口腔リハビリテーション学会(理事長)。第23回日本顎変形症学会学術大会 大会長(2012-2013)
主な著書は『口腔顎顔面疾患カラーアトラス』(永末書店 2012)、『歯科臨床研修マニュアル起こりうる問題点と解決法』(永末書店 2012)。

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