文化とアートのある暮らし

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第16回
「音楽の芽は空気のようにどこにでも」

日に日に寒さが増してきて、手が冷えやすくなりました。
ピアノを弾く前に手の先を暖めるような仕草をしてしまいます。もうすっかり冬ですね。

多くの人にとって最初の音楽体験はきっと胎児の時だと思いますが、物心がついたときからで考えると、私の場合は保育園での’おはようございます’ ’いただきます’ ’さようなら’ のうたでした。お遊戯の音楽もたくさん経験しているだろうけど、毎日の必要な習慣やご挨拶の言葉を音楽にすると、言葉だけで習得する2倍も3倍も浸透しやすいのです。その習慣が身体に記憶され、自然なかたちで音楽が日常に入っていました。
また、その感覚で何度も何度も繰り返して歌として覚えておくと、ステージに立った時にたとえ緊張のあまりにいつもと違う思考になっても、身体が自然に音楽をリードしてくれるのです。この時の脳はもしかすると「言語」をつかさどる部分を離れてもっと別の世界に触れる脳分野が活発になっているかもしれませんね。音楽家はこのように日々のトレーニングを通して音を空気のようにも身近に感じています。

演奏は楽器を抱えたり楽器の前に座ったりして音を奏でるのですが、私の場合、寝ているとき、出かけているとき、家事をしているときのほうが、むしろ頭の中では音楽が活発に鳴っています。
先日、介護予防・認知症予防を目的としたある講座を体験受講したのですが、音楽がいかに社会にとって大事なものなのかを感じることができる研究会でした。
今後、誰もが知っている少子高齢化が急速に進み、高齢者の割合は4人に1人以上となります。この「超高齢社会」では現在の認知症患者が約550万人のところが2025年に団塊の世代の1000万人超が後期高齢者に加わることで、約730万人もが認知症患者となると推定されているようです。認知症を予防し、認知症にならないための健康維持を考えることが今後急務になります。

医療分野には、症状を抑えるための処方薬があり、どんな病気にも薬は患者にとって大事なものになりますが、薬がはたらきかける役割は理科学的なもの。では、人々が笑顔になって健康を維持できる薬はこれまでに存在するのでしょうか。
健康な身体でいると、毎日が楽しくなり笑顔になれるということはよくありますし、第一に身体の健康、また、笑顔が身体を育てるという逆のパターンも考えられるでしょう。心は薬では育ちません。



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