第20回
「伝えたいこととデザイン」
2016.04.30 [寒川晶子]
「アートと文化のある暮らし」というコラムらしく、アート的な見方を忘れてはいけないのですが、このハンドブックははっきりとした黄色の表紙で文字は黒、何かふみきりの遮断機をイメージするかのようで、ある種の記号で注意や警告を意味しているのではないでしょうか。例えば、このハンドブックが淡いピンク色だとすれば、暖色系のあたたかくほっこりした雰囲気に包まれ、「災害」という危機的な状況を乗り越える心が働かなくなるでしょう。
デザイナーは、相手に伝えたいことを色やデザインによって伝えています。そしてそれを受け取る側も頭では気づかなくても実は潜在的に受け取っているのです。
音にも例があり、緊急地震速報の音も潜在的に訴える記号が盛り込まれています。東日本大震災をきっかけに誰もが耳にしたことのある緊急地震速報ですが、東日本大震災時は音の不快感だけでなく音質もキツい音響を放っていました。ところが今回熊本の大地震の時にふと気づいたのですが、そのキツい音響はマイルドに変わっていました。あまりにキツすぎても身体は不快で不安が増すだけだと判断されたのでしょうか。数年の間に部分的に改善されたのかもしれません。ただし、あくまでも改善されたのは音響の質であり、使用されている音型や音程は同じです。仮に、音型や音程が穏やかできれいに響く音の組み合わせだと、風鈴やハンドベルと勘違いしてしまうので、これもまた「注意や警告」であることを考えて音響の専門家がわかりやすくデザインしています。
社会の中にはたくさんデザインがあり、一つ一つの看板や掲示板や広告も、空間や描くもののバランスを取り、受け取る側の人がキャッチしやすいように考えられています。
最後に、海外の方に伝わりにくいと言われている日本の道路案内標識です。
神社やお寺や橋など、そのほかいろいろな所が英語に置きかえられていないところが多く、…jinjya、 …ji 、…hashi と日本語をローマ字表記しただけになっています。
海外の方が日本に来て地図や道路案内標識を見て行動したいときにこれらの文字から連想している内容や絵のイメージはまったく違うものであり、すなわち非常にわかりにくく説明にはなっていないようです。道路案内の場合は絵で補われることは少なく言語のみなので、得られる情報は文字だけです。
すでに少しずつ改善はされ始めているので、気づけば…ji temple などと変わっているかと予想します。
これまで日本人や日本語がわかる人に向けての表示だったものが、受け取る側の層もぐっと広がりより多くの方と共有できるものになるでしょう。デザインの力って素敵です。
と、デザインについてを少し展開してしまいましたが、今回の地震が一刻も早く落ち着きを取り戻し、被災された方が早く日常を送れますように心からお祈りいたします。
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