第39回
島のテレビはみんなのテレビ ~ラオス・コン島~
2017.01.11 [秋野 深]
あけましておめでとうございます。
今年で『写真家・秋野深のやさしい旅のフォトレッスン』の連載もなんと4年目に突入です!
今年も、毎回1箇所、私が訪れた魅力的な場所をご紹介しながら、フォトレッスンをお伝えしていきます。
これまで以上に、「その土地の息吹」もお伝えできるよう、「旅のフォトエッセイ」のテイストも増やしていきますので、ぜひお楽しみに!
随分前のことになりますが、東南アジアを2カ月ほどかけて旅したことがあります。タイ北部からラオスに渡り、大河として有名なメコン川を2日かけて船でくだり、ラオス南部へ。そのあたりまで下ってくると、メコン川の川幅はなんと15キロほどにもなり、シーパンドン(「4000の島」の意)と呼ばれる無数の島々が浮かんでいるエリアがあります。私はその中のコン島という、カンボジアとの国境に近い島に数日間、滞在しました。
コン島は、2、3時間もあれば自転車で隅々まで回れるほどの小さな島。村は、細い一本道の両側に木を編み合わせて作った小屋がヤシの木と共に並んでいるだけの素朴な雰囲気に溢れていました。
ところが・・・日が暮れると島の雰囲気は一変します。当時、村には、まだ電気が通っておらず、宿や食堂を経営する家庭がわずかに自家発電機を持っているだけだったので、夜は、静寂と暗闇に包まれた島へと変貌してしまうわけです。
私が泊まった宿は、小さな食堂も兼営していて、そこには1台のテレビがありました。そして、毎日夜7時頃になると、夕食を終えた島の人々がそこでテレビを見ようと、一人また一人と集まってきます。でも、発電機を稼動させているのは日没後の数時間のみ。さらに、島の人々は夜8時台には寝てしまいます。だから、みんながそこでテレビを見られるのは、せいぜい1時間くらいなのです。
コン島での滞在中、夕食後に食堂で毎晩その光景を見るのが私の日課になっていました。
テレビは1台しかないので、大人も子供も、孫を抱きかかえたおばあさんも、みんなが同じ番組を見ることになります。時代劇、トレンディードラマのような若い男女の恋愛物、そして・・・日本のアニメの『一休さん』! どの年代の人も真剣なまなざしで、食い入るようにテレビを見ていました。
多い時には50人近い村人が集まる日もあって、番組のテーマソングが流れると、みんなで口ずさんだりしていました。アニメの『一休さん』を見ているときには、ある程度から上の世代ならきっとご存知の「スキスキスキスキスキスキ♪ アイシテル♪ スキスキスキスキスキスキ♪ イッキュウサン♪」という番組の歌を、みんなが日本語で大合唱。意味はわかっていなくても、毎回みんなで一緒に歌っているので覚えてしまっているのです。
そして8時になると消灯。もっとテレビをみたいとわがままをいう子供は一人もいませんでした。
「ありがとうございました! おやすみなさい!」
みんなそう言って、ろうそくを片手に、真っ暗な、本当に真っ暗な島の夜道をそれぞれの家へと帰っていくのです。
テレビに集まる島の人々のそんな様子を見ていて、きっとテレビが普及し始めた頃の日本にも、同じような空間が日常的にあったのかもしれない・・・そう思いました。
テレビを見ていてわからないことがあれば、隣のお兄さんやお姉さんが教えてくれます。それでもわからなければ、大人たちが教えてくれます。そこは学校や家庭以外の人間関係を自然に育む場にもなっていたのです。家にも自転車にも鍵などかける必要のない平和な島の社会を支えているのは、テレビに集う、そんなコミュニティの在り方なのかもしれません。
みんながテレビに集う空間、そして「一休さん」を歌うみんなの歌声。メコン川に浮かぶ小さな島での、思い出深い旅の記憶として、今でも鮮明に蘇ります。
■ワンポイントフォトレッスン
島の子供たちがテレビに釘付けになっている場面です。ところが、往々にしてこういう時、カメラ目線になる子がいたりするもの。カメラのことは気にしないでほしいわけですが、なかなか難しいですよね。そんな時は、その場でカメラを構えてすぐに撮影したりせずに、しばらくそこにいて、みんなが気にしなくなるのを待ちます。撮り始めてカメラ目線になってしまうようであれば、間隔をおいて何枚か撮っていると、だんだん撮られていることを意識しなくなって、自然とテレビに集中してくれるようになります。
カメラ目線ではなく、人が何かに集中しているような写真を撮りたい時には、そんなふうに写真を撮られていることを忘れてもらえるように少し時間をかけてみるとよいでしょう。
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