写真家・秋野深のやさしい旅のフォトレッスン

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第41回
バザールの風と香り ~イラン・イスファハン~

市場やバザールは、現地の人にとっていわば日常の空間です。そんな場所を散策する時間は、私にとって旅先での大きな楽しみの1つでもあります。
今回は、これまで訪れた数あるバザールの中でも特に印象に残っている、イランの古都イスファハンの「王のバザール」をご紹介します。
イスファハンは、日本でいえば京都のような都市で、17世紀には「イスファハンには世界の半分がある」と称されたほど栄華を極めた古都です。

「王のバザール」は、かつての宮殿やモスクが立ち並ぶ世界遺産のイマーム広場のそばにあります。通路はまるで迷路のように複雑に入り組んでいて、迷子にならずに歩き回るのは難しいほどです。
気温が40度を越える夏の灼熱の日も、アーケードに覆われたバザールの中は外界とは別世界で、ひんやりとした涼しい風が通路を流れていきます。日本と違って湿度が非常に低いので、真夏でも日陰の空気はとても涼しく、日本ではなかなか体感できない心地よい清涼感を味わえます。

しかも、涼しく乾いたバザールの風は、様々な香りを運んでいます。
絨毯屋が建ち並ぶ通りには、柔らかい羊毛の香りが、工芸品店が並ぶ通りには塗料の匂いを乗せた風がゆったりと流れているのです。
そんなふうにして、嗅覚を頼りにバザールを散策していると、突然、食欲をそそる香りを乗せた風に出くわしました。きっとこの先には香辛料の店があるに違いありません……。
その香ばしさにひかれるように風上側へと通路を歩いてみると、案の定、私の前には香辛料店が! 香り高く色鮮やかな香辛料は、やはりバザールの華ですね。風は何十種類ものスパイスをブレンドさせた香りを運んでいたのです。

【写真1】
【写真1】
【写真2】
【写真2】

迷路のような「王のバザール」の中では、香りを乗せてやってくる風は、ちょっとした旅先案内人のような存在です。旅人がさまよいこんでしまいたくなるような「王のバザール」の魅力は、きっとこの風にあるのでしょう。

■ワンポイントフォトレッスン

前号では、順光や逆光など光の向きの重要性について触れました。ですが、屋内ではそもそも撮影するための光が十分にはなく、特に海外では日本の屋内よりも照明が暗いと感じることは多いでしょう。やはり、見た目にも薄暗いところでは、写真できれいな色を出すのは難しいことです。
【写真1】は、香辛料の色をしっかり出すために、電球で照らされているところがメインになるように撮影しています。また、【写真2】は、直接日光が当たる場所ではありませんが、少し自然光の影響で明るめになる店頭で撮影しています。
屋内で撮影するときは、このように、照明の近くや、窓際でできるだけ自然光が入りやすいところなど、少ないながらも光を意識して撮影場所を選ぶとよいでしょう。

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