第1回
シニカルな笑いで客を引き込む、
刺激のある大人向けコメディー『引き際』
2011.09.20 [上谷 忠]
●役作りはどのようにしますか。また、気に入っているシーンなどありますか。
最初に読んだ感覚は大事にしますけど、演出家に言われたことを受ける柔軟さも持っていなきゃいけない。相手役や、共演者の方々とやっていくうちに、何を感じるようになるか。できる限り柔らかい状態で稽古場にいること、この積み重ねです。自分で決めつけて役作りしたくないので。
今回の作品では、一人何役もやるんです。気に入っているのは「蝉時雨蝶子」という役。シャンソン歌手の設定で、『方丈記』に音楽をつけて歌うんですけど、すごく楽しみにしています(笑)。コミカルなシーンですが、歌っている内容は結構シビア。『方丈記』は、地震や竜巻などの天災を受けての記述がある古典なので、蝶子が派手な衣装を着てライトを浴びて歌う姿は、最初に言ったシニカルな笑いというのに通じると思います。
●月船さん一人のユニットとして、新生métroスタートの作品となるわけですが、これまでと何か変化したことは?
出口さんと二人でmétroを始めた当初は、息遣いまでもお客さんに伝わるような距離感でやりたかったので、あえて大きな劇場は選びませんでした。演劇は、もっとお客さんと一体になれるものだろうと思っていたので、フリースペースに近いところで、四方を客席にしたり、お客さんの目の前に役者が立ったりと、舞台以外のところまで作り込んでやっていたんです。
今回は、赤坂 RED/THEATERでの上演なので、これまでよりも大きな劇場になります。舞台と客席がきっちり分かれていて、離れたステージでやる芝居になるので、演出の方法など、これまでとは絶対に違うものになります。
でも、分かれている舞台と客席という空間の認識を、気持ちの上で壊せるような舞台を作れると思っています。『引き際』は、これまでの小さい小屋でできるような演目ではないですし、劇場の大きさとしっくり合っています。演目と劇場のキャパシティーとがぴったりマッチしていることって、本当に大切なんです。
もう一つ、今回は制作をジェイ.クリップさんにご協力いただいています。métro立ち上げのころは、演劇を作って動かすことがどれだけ大変なことか、苦しくても全部を経験したかったんです。ノウハウを誰かに聞いてそのままやるのではなく、二人で試行錯誤して一からやってきました。稽古場や劇場を押さえて、経費を計算してチケット代を決めて…。本当に大変でしたが、助けてくださる方もたくさんいました。
ジェイ.クリップさんとは、演目やキャスティング、色々なことを話し合いながら決めています。丸投げは絶対にしたくないので、一緒にやらせていただく形にしています。
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