第9回
「一枚のハガキ」の舞台挨拶
2011.08.23 [島 敏光]
出演者は全員、監督の方を向き、
一字一句を聞きもらすまいと、耳をそばだてている。
こういう光景はあまり見たことがない。
「いよいよお別れの時がやって来ました。
皆さんは時々でいいのでぜひ私の作品を見てください。
それが私の望みです。
そうしてもらえればたとえ死んでも、私は死なないのです」
人生のゴールを目前に控えた映画監督の魂の叫びだ。
出演者も涙をぬぐっている。
99歳にちなんで、99本のまっ赤なバラの花が、
大竹しのぶから監督に手渡される。
一言とうながすと
「99本のバラをいただきましたが、これが重くて取り落としそう」
と絶妙なギャグを入れ、会場を爆笑の渦に巻き込む。
僕がお客さんに伝えた注意事項は撮影禁止と、もう一つ、
監督・出演者が完全に退場するまで席を立たないで下さいということ。
舞台上から見る限り、それを守らなかったお客さんは一人もいない。
最後までじっと座ったまま、惜しみのない暖かな拍手を送っている。
素敵な監督と出演者、それにも負けずに素敵なお客さんたち……。
舞台挨拶を終えた今、映画への愛に満ちた現場に立ち会えた幸運を、
しみじみと噛みしめている。
「一枚のハガキ」
テアトル新宿、広島・八丁座にて先行公開中、8/13(土)より全国ロードショー!
作品をつらぬく骨太な反戦のメッセージ。
クジで決められた人間の運命をユーモラスに力強く描く。
好き嫌いはあると思うが、映画ファンならこれを見逃す手はない。
☆☆☆☆
(☆は1~5、3つが平均)
©2011「一枚のハガキ」近代映画協会/渡辺商事/プランダス
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