第4回
若き父の歌うジャズ
2011.06.14 [島 敏光]
最初の曲は「雨に唄えば」。
柔らかな昭和のスウィング・ジャズが耳に飛び込んでくる。
「恋人よ我に帰れ」「枯葉」、エルヴィスのレパートリーとしても知られる「クライング・イン・ザ・チャペル」(邦題「泪のチャペル」)などが次々と甦る。
これが何ともジャージーと言うより、むしろ牧歌的で心地よい。
20代の父のハイトーンが甘くやるせない。
古くさいがカビくさくはなく、和やかな団欒の匂いがする。
父は仕事と浮気に忙しく、あまり我が家には寄りつかず、僕には家族が揃って団欒の一時を過ごしたという記憶がない。
皮肉なもので、僕には無縁だった大切なものがこんな所に潜んでいた。
チャンスがあれば、この時代にしか生まれなかった手さぐり状態の国産ジャズに一度、じっくりと耳を傾けてもらいたい。
笈田敏夫は2003年、78歳で腎盂癌のためこの世を去った。
父に対抗する気はさらさらないが、僕も自分のバンドを持ち、時にはライブ活動なども行っている。
父は「甘い歌声」と言われていたが、僕は廻りから「甘い音程」と呼ばれている(これ、笑うところです)。
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