荒野のエッセイスト(音楽編)

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第26回
なぜ、ここで、この曲が?

音楽や映画に関心を抱き続け、
今日まで生きてきた僕にしてみれば、
日々の暮らしの中で時折、
なぜ、ここで、この曲が流れるのか、
と呆気に取られることがある。

今回はそのBest3を紹介しよう。
第3位……。
とある結婚式場。
披露宴も大詰めを迎える頃、
新婦の父が進み出て、
「ここでお祝いに一曲」。
会場からはヤンヤの喝采。
選んだ曲は「ラ・ノビア」。
僕は一瞬「あれ?」と思う。
「泣きぬれて」という日本語タイトルもあるラテンの名曲だ。

父は朗々と歌い始める。

♪白く輝く花嫁衣装に
心をかくした美しいその姿
その目にあふれるひとすじの涙
私は知ってる
アヴェ・マリア

ここまではいい。
問題はサビの部分だ。

祭壇の前に立ち
いつわりの愛を誓う
十字架にくちづけして
神の許しを願う

おい、いつわりの愛を誓っちゃマズいだろ。
会場には重苦しいムードが漂う。
父はそれに気付いているのかいないのか、
それでも最後まで歌いきった。

会場からは控えめな拍手。
果たして父は何を考えていたのか、
何も考えていなかったのか、
僕には分からない。

ただ、僕は思う。
結婚披露宴に「ラ・ノビア」は止めてほしい。

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