第8回
ヨーロッパの移民問題の基礎講座
2012.09.04 [村上 充]
ここから、2大大国となるフランスとドイツの移民問題について説明していきましょう。
2009年の調査によると、フランスは総人口6200万に対し移民数668万で人口比10.7%、ドイツは総人口8210万に対し移民数1076万で人口比13.1%となっています。単純に比較はできませんが、日本は、2011年時点で総人口1億2700万に対し在留外国人数207万となります。
「自由・平等・博愛」を国家の標語として掲げるフランスは、外国人労働者受け入れの長い歴史を持っています。また、国籍の出生地主義を採用しているため、フランス生まれの移民の子どもたちは成人するとフランス国籍を取得することができます。しかし、彼らが「フランス人」として差別なく扱われているかといえば、「人権の国」とはいえ、難しいようです。また、1974年以降、フランスでは、外国人単純労働者の受け入れを原則的に禁止していますが、正規の滞在許可証や労働許可用を持たない「サンパピエ(書類なし)」と呼ばれる外国からの不法労働者が後を絶たず、社会問題となっています。このような不満に一気に火が付いたのが、2005年に多発した、移民の若者たちを中心とした暴動です。
経済大国ドイツは、1000万人を越える移民が生活していますのが、その内、トルコ系移民が約250万人を占めています。戦後、ドイツは、移民、特にトルコからやってきた労働者のことを「ガストアルバイター」と呼んできました。「ガスト」とはゲスト(お客さん)、「アルバイター」は労働者の意味ですから、一時的に労働力として受け入れるが、あくまで、出稼ぎに来たお客さんですよ、といった表現です。しかし、現実的には、主にトルコ系移民が集住する地域が各都市で広がっていき、彼らの存在を無視できなくなりました。フランスなどの移民への取り組みに遅れ、2004年に「移民法」を制定しましたが、移民の社会的統合は大きな課題となっています。
ドイツでは「血統主義」的な考え方によって、実際に社会の構成員として働き、生活していた外国人労働者とその家族に対し、あたかも存在しないかのような対応を取ってきました。これは、日本の現状に近いと言えます。日本でも、血統主義的な発想なのか、1992年に日系人とその家族を対象に、日本で働くことを許可する「定住者ビザ」を発行しました。その結果、ブラジルやペルーなどから多くの人々が出稼ぎとして来日し、人手不足に苦しむ地方の工場などで働きました。また、技能実習ビザで約14万人の若者たちを主にアジアから受け入れていますが、今や、彼らを実質的に「労働力」として活用しなければ、成り立たない地方産業もあるのが現状です。そこで働き、生活する人々の姿を見て見ぬふりをし続けてきたため、対応が遅れたと言われるドイツの移民政策と同じ道を進もうとしているかのようです。ヨーロッパ諸国では、これまでの反省を生かしながら、移民との共生へ向けた政策がとられています。日本でも、外国人労働者の受け入れ、外国人生活者への日本語教育の必要性などについて、真剣に議論しなければならない段階にきています。
下記、今回の参考文献となります。より深くこの問題について考えたい方は、ご一読されることをお薦めします。
『ヨーロッパとイスラーム』(岩波新書)
『移民のヨーロッパ』(明石書店)
『周縁から照射するEU社会』(世界思想社)
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