第10回
深くて、本当はおもしろい――国語辞典の世界
2012.11.06 [村上 充]
『舟を編む』には、常に、カードを持ち歩き、聞きなれない言葉を見たり、耳にすると、カードに書いて採集する松本先生という老教授が登場します。この松本先生のモデルになったのではと噂されるのが、見坊豪紀です。大学院生だった1939年から1992年に亡くなる直前まで、新しい言葉を採集するカードを作成し続け、その数は、なんと140万枚に上ったといいます。また、全13巻の大型辞典『日本国語大辞典』の礎となった『大日本国語辞典』をほぼ独力で完成させた松井簡治の、朝3時から出勤までの8時までの5時間で、1日33語の解釈を20年間続けたという話からも、凄まじい言葉への情熱、執念を感じます。
デジタル化がさまざまな分野で進む中、仕事も、言葉も、少しずつ重みを失ってきたように、感じられるときがあります。一見、味気ない読み物と思われがちな国語辞典の中には、長い間、多くの作り手たちが言葉と、正面から向き合ってきた重みが隠されていて、そこに気付けば、国語辞典の深くて楽しい世界に遊べるようです。
対談の最後、三浦さんが、「『舟を編む』を読んで、『日本語の素晴らしさに感動した』といった感想を読者からいただくけれど、その時、『日本語がこれだけ素晴らしいなら、他の国の言語も同じように、きっと素晴らしいに違いない』と想像してほしいな」とおっしゃっていました。この言葉、日本語を外国人に教えるときにも大切にしたい考え方です。
また、『日本語教育ジャーナル』2012年冬号(11月9日発行)には、特集「ことばの世界に遊べ! 本当はおもしろい国語辞典」を掲載しますので、国語辞典の世界をより深くご理解いただけると思います。ぜひご覧ください。
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