第11回
フリーランスで日本語を教える
2012.12.04 [村上 充]
「フリーランスって、教育業というよりも、サービス業なんですよ。私が教えている生徒さんたちはお客さまで、一人一人のニーズ、つまり、どのようなレベルや場面で使う日本語を身に付けたいのか、なぜ日本語を学ぶ必要があるのか、どのように学びたいのか、などを徹底的に確認し、彼らの求めているレッスンをオーダーメイドで提供する必要があるんです。日本語学校などでは、大学進学や、日本語能力試験対策などの学習目的に向けたカリキュラムを組んで、クラス単位で指導していきますよね。でも、私の生徒さんたちには、スピーチに日本語を取り入れたいという某国大使、日経新聞を読みこなしたいという外資系の金融ビジネスパーソン、日常生活に最低限必要な日本語を身に付けたいという駐在員など、レベルも学習動機も求められる日本語自体も千差万別です。お座敷で接待をするときの注意点を聞かれることもありますし、時には、異国で働くストレスの聞き手に徹することもあります。レッスンも、クライアントのオフィスの会議室で行うこともあれば、学習者の自宅に招かれたり、カフェで教えたりと、さまざまです」
フリーランスならではの苦労もあるのだろうか。
「彼らはビジネスライクなので、人間的にいい人、友人としては付き合えても、仕事は別です。お金を払う価値がないと思うと、すぐに契約を打ち切るといったシビアな面があります。ですから、『お客さま』を満足させるレッスンを行えるよう、一人一人、一回一回、手を抜けません。ですが、彼らを満足させようと、私も経済書を読んだり、新聞などで情報を仕入れたりするよう、常に意識しています。ただ、そういった準備は、自分自身にとっての勉強にもなりますし、国際経済の最前線で働く彼らからも刺激を受けることができて、この仕事に飽きたり、辞めたいと思うことがないんですよね」
印象に残っている学習者について尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。
「そうですね。クライアントの中には、仕事として日本にやってきて、仕方なく日本語を学ぶことになった人もいます。以前、『この国は大嫌いだし、日本語を覚えるつもりもない。会社の指示だからレッスンに来ているだけだ』と、会うなり宣言してきた男性がいたんですが、日本語を学び、身に付けていくうちに、日本や日本人への印象が180度変わって、大の日本びいきになったんです。後に、日本人と結婚し、日本企業の社長となり、今も日本に住んでいます。こういう出会いは、こちらもうれしくなりますね」
最後に、フロムナウ世代がフリーランスとして教えるに当たって、アドバイスをいただいた。
「これまで、企業などで働いてきた経験を生かすことができる仕事です。でも、無意識のうちに、自分の働いてきた会社のルールを絶対的なものとして押し付けてしまう人が多いように見受けられます。中には、自分の仕事上での自慢話ばかりを話してしまい、契約を打ち切られてしまった人もいるそうです。あくまで、彼らが何を求めているのかを正しく把握して、提供するように心掛けてくださいね」
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