第13回
日本語教育の現場リポートⅡボランティア 千田茂さんに聞く(後編)
2013.02.26 [村上 充]
――これは、多くの日本語ボランティアで問題となるテーマの一つですね。「交流型」の日本語ボランティアでは、日本語学校のように体系的に教える必要はないという考え方が中心です。それでも、やってくる外国人の中には、日本語をしっかりと学びたいという人がいますからね。
もちろん、日本語教育の知識がない人でも、日本語レベルの高い外国人の実践的な会話練習の相手になったり、日本の生活のルールを説明したり、など、できることはたくさんあります。そういう方たちの熱意も十分に生かせる場なので、そこは誤解しないでほしいですね。ただ、自分の母語だからといって、初級レベルから日本人なら誰でも教えられるかといえば、別問題であることも理解しておいてほしい。相手が「○○○の意味は何ですか?」と聞いてきたときに、難しい言葉を並べて、長々と説明すると、かえって混乱させたり、自信を喪失させてしまいますからね。
私たちは、話し合いの結果、日本人ボランティアのための日本語の教え方についての勉強会を開いたり、日本語の指導を希望する外国人には日本語を教えられるボランティアをマッチングさせるよう、登録時にコーディネーターと呼ばれる人が調整するようにしました。また、日本語を体系的に学びたいという外国人のために、クラス形式で教える「初級コース」クラスも、この日本語教室とは別に設置しました。
それから、私たちのような、地方の日本語教室で無視できない問題が「方言」です。大阪で生活する外国人にとっては、「なんぼ」「まいど」「あかん」といったテキストに載っていない言葉を日々耳にしながら生活していますからね。「方言」について学びたい、教えたいという声があり、月に2回、15分程度の大阪弁講座が有志によって開催されています。会話練習をコント形式で行っていて、好評なようですよ。
――日本人と外国人、双方ともに、求めているものはそれぞれですから、それらを調整し、管理する役割が、運営には欠かせないようですね。
発足まもない時期は、ボランティアを取りまとめる正式なリーダーがいなかったため、足並みが揃いにくく、ボランティア同士の考え方の違いが表面化し、対立したこともありました。みなさん、困っている外国人をサポートしたいと、善意で集まってきているのですが、仕事でやっているわけではなく、「ボランティア」に対する考え方もそれぞれです。ボランティアなんだから「自分のやりたいように、自由にやりたい」と主張する人もいましたが、時間を守ったり、会議に参加するなど、最低限のルールには従わなければボランティアは続きませんからね。30人くらいで始まったボランティアも次第に増えて、現在では約60人となり、リーダー、コーディネーターを決め、団体を運営していく上での「ルール」を整備していきました。「運営マニュアル」を作ったのですが、ただ、運営ルールがあまりに細分化され過ぎてしまうと、不満が生じてきたりと、バランスを取るのは、難しいですね。参加者全員が満足できる組織というのは、現実的には難しいと思います。それでも、試行錯誤を繰り返しながら、よりよい活動ができるよう、話し合いを続けていくことが大切なのでしょうね。日本語ボランティアに何ができるのか、ボランティアとしての可能性を、これからも考えていきたいですね。
※ 千田茂さんのブログ「日本語ボランティアの焦点 ~ボランティアによる日本語ボランティア論~」(http://nihongo-vlt.seesaa.net/)には、日本語ボランティアについてのさまざまな考察が記されています。ぜひご覧ください。
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