第4回
仕事としてでも、謙虚な姿勢を身に付けましょう
2012.01.17 [出口 知史]
一例を挙げると、高度経済成長期において「飲ませや歌わせや」で築いた円滑な人間関係によって仕事が取れてきた営業マンが、不況期においても提案内容での勝負でなく接待と人間関係に持ち込もうとして、なかなかうまくいかないで苦しむ場合があるということです。いわゆる古い体質の業界や企業・組織で、より強く見られる傾向でしょう。
より深刻な問題を招くパターンとしては、上記のような、過去の成功体験にこだわってしまう人の役職が時とともに高くなっていて、よりいっそう直近の現場の情報が入ってきてない状態であることです。その人が営業部長だった場合、部下からの問題報告を受けた時、本来は「まだわからない、判断ができない」はずのことを、その問題が起こっている現場に近い人からの意見を無視して、「~に決まっている」と、自分がいち営業マンだったころの成功体験から導いた一方的な推測をし、失敗してしまいがちです。たちが悪いのは、過去に実績があると周囲の人間も、間違っていることを薄々感じていた場合にも、言い出しにくいことです。
成功の罠に陥っていると、他の人から「なぜ?」という質問を受けると、イライラしてしまいます。「説明しなくとも、自明のことだ。面倒くさい」という心境になるのでしょう。
根本的に、ほとんどの人にとっては、新しいことに取り組むことは(それが必要だとわかっていたとしても)面倒臭いことです。さらに、うまく結果が出ていない状況においては、よりその心境は強くなります。仮に昔のやり方が今は通用しないかもしれないと薄々気づいていても、それを認めたくありません。それを認めると、話している相手にまったくその気はなくとも、過去の成功体験まで否定される気分に自分で勝手になってしまうからです。
その結果、つい「黙って見てろ」となってしまうのです。このような場合、一度頭を冷やして考え直してみることは、失敗を未然に防ぐということにおいて、とても大切なことです。その大切なことを意識して、過去の延長のまま取り組みたいという誘惑に勝てるかどうかで、その後の結果は変わってくるでしょう。
過去からの“慣れ”で何かを取り組んだ結果、うまくいかなかったことはなかったでしょうか? もしあった場合は、その体験談を披露することは周りの皆に非常に役立つことです。
ちなみに『イノベーションのジレンマ』が出版されたのは1997年ですが、いまも全く変わらずに同様の現象はそこかしこで起きています。最近話題になったような、優良企業をも短期間で窮地に追い込んでしまうような暴走をしてきた一部の独裁的経営陣にも、自分たちの望み通りに世の中が動いていたという成功体験が数多くあったのかもしれません。自分自身を客観視して行動を変えるということは、なかなか超えがたい永遠のテーマなのかもしれません。
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