第10回
企業人から起業人への道〈3〉;かけつけてくれる先輩・後輩
2012.07.10 [出口 知史]
前回は、起業において最低限備えるべき条件の2つめ「5年後も目に浮かぶネットワーク」について述べました。今回は条件の3つめ「かけつけてくれる先輩・後輩」についてお話しいたします。
この先輩・後輩は、前回述べた「仕事を融通し合える仲間」と共通する部分もありますが、異なる点は「ギブ アンド テイク」ではなく「テイク アンド テイク」の関係であっても許容してくれるケースが多いことです(もちろん、親しき仲にも礼儀ありですので、頻度や期間が非常識でなければの話ですが)。
組織にいる間は、自分が割り振られた仕事に特化して働くことができます。例えば営業マンであれば、売り上げを上げることに集中すれば良いわけで、経費の精算などは用紙を提出したりPCに入力したりするだけで済みます。経理マンであれば、経理業務をがんばれば、売上げを上げなくても給料がもらえます。
コピー用紙や文房具などは、切れてもいつでも補充できるように事務の人などが文房具棚に保管しておいてくれますし、パソコンのハードウェアやソフトウェアの交換やバージョンアップなどは、システムサポート部の人などがやってくれます。
自分の葬式で泣いてくれるか?
起業すれば、そうした会社のインフラや機能が全部なくなりますから、全部自分で対応しなければならず、起業直後から本業以外の仕事に多くの時間やお金を費やさざるを得なくなります。そうした時に、それぞれの領域に詳しい人にちょっと電話で聞いたりできれば、相当助かるはずです。
またインフラもそうですが、会社では社員同士がいろいろなことをサポートしあっています。企業に属していれば、何かの資料を作るのも、どこかとコンタクトを取るのも、情報を聞いたり調べたりするのも、社員同士で助け合えますが、独立したらそうはいきません。
そんなとき、困ったときにちょっと聞ける、場合によってはかけつけてくれる相手がいれば、相当助かるはずです。もしも事業が成功して人を雇いたいと思ったときは、高くつく採用コスト(エージェントを使えば報酬が発生しますし、自分で見つける場合でも時間も労力もコストもかかります。それらは予想以上に高くつくのが一般的です)も抑えられるかもしれません。
「こいつの言うことなら信頼できる」「あの人の言うことはいつもまっとうだ」と思える相手がどれだけいるかが、のちのち物理的や時間的、また精神的な助けになります。もちろん、相手もそう思ってくれていなければなりませんが、相思相愛(?)になっているかどうかは、同じ組織にいる間はなかなか確かめられないでしょう。
相思相愛を望む人が、自分が入院したとき真っ先に見舞いに来てくれそうか、自分が死んだとき葬式で心の底から涙してくれそうか、そして自分にまつわる思い出を語ってくれそうか、といったことをイメージしてみればよいでしょうか。
会社を離れると、同僚や先輩・後輩とはどうしても関係が今より希薄になってしまいがちです。そうしたなかで長く続く人間関係を築いていくためには、今まで培ってきた信頼関係を大切にし、良好な人間関係が続くための努力を怠らないことです。
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