第11回
長野県・美しい髪をとかすお六櫛
2012.02.07 [fromNow お取り寄せチーム]
現代に継承される伝統の技
堅牢な材料は、素材として秀でているが、加工には手間を要する。
伐採されたミネバリは、しっかり乾燥させて木の曲がりをとるため、原木のままで3年、板とりした状態で10年保存されてから加工される。
加工には15~20もの行程があるという。櫛の形を粗鉋で下削りしてから、上鉋で形を整えていく。中央に稜線を持つよう、ゆるやかに弧を描くように削られ、次に櫛の歯の行程となる。ここではさらに、歯型、筋付け、などさまざまな道具を用い、表面から筋にあわせて「歯挽き鋸(ハビキノコ)」で歯を挽く。裏面に残った部分は「山抜き鋸」で細かく挽きこむ。歯と歯の間や先端を「とくさ」というヤスリで丹念に仕上げてゆく。形ができあがったら、表面を丁寧に磨いて、やっと仕上げとなる。肌あたりが柔らかく、細かく均等な歯を持った、優雅な弧を描く美しい櫛は、熟達した職人ならではの技の結晶だ。
お六櫛は、その用途と機能から大きく4種類に分けられている。いま使いやすいのは、やや歯の粗い「解かし櫛」(解き櫛)だと思うが、 そのほか、両側に細かな歯があるのが特徴的な「梳き櫛」、装飾や彩色が施され、結った髪の飾りにも用いた「飾り櫛」とも呼ばれる「挿櫛」、そして、髪結いや相撲取りといった日本髪や髷を結うための「結櫛」などがある。
興味深いのは「梳き櫛」のデザインで、もともと、髪のフケやホコリをとりのぞくために作られたため、歯の間隔は0.5mm以下と極めて細い。髪の毛一本一本を櫛の歯でとくことで、汚れを取り除き、また、髪に美しいツヤを出す。中でも、お六両歯と呼ばれるタイプは、江戸時代の寛政年間から文政年間に創案されたもので、櫛の中央にシノギと呼ばれる稜線があって、それを境に両側に細かい歯が緻密に並ぶ。櫛歯を保護するために鞘をつけたものがあり、こうしたものが、善光寺土産としてもてはやされたのだろう。
この「梳き櫛」は、戦後、シャンプーと洗髪の普及で生産量が減ったそうだが、現在も、販売されている。
稀少で堅牢な材料と名工と呼ばれる職人が伝統的技術に則って、丁寧に仕上げたお六櫛は、価格的にも高価だが、親子三代使えるといわれているそうだ。女性にとって髪をとく行為は、不思議と気を引きしめ、心を落ち着かせてくれるもの。そんな和の伝統を今に伝えるお六櫛を、いつもバッグに忍ばせて持ち歩きたい。
●木曽のお六櫛
http://www.kisomura.net/
●お六櫛本舗
http://www.orokugushi.com/
●うるしドットコム
お六櫛・みねばり櫛・つげ櫛
http://www.urusi.com/orokugusi.htm
●信州木祖村
木曽のお六櫛についての解説や、お六櫛の展示がある木祖村郷土館などの情報を掲載
http://www.vill.kiso.nagano.jp/
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