第12回
陽の光
2012.11.20 [星野 正紀]
さて、ここからは、これまでの話が「モノづくり」にどう関係しているのかを書いていきます。
家という1つの箱の中には様々なモノが存在します。まずはこの箱の中を仕切るための壁。その壁沿いには家具が置かれ、その上にもモノが存在していることが多いと思います。壁に仕切られた各々の部屋の中央にはテーブルや椅子が配置されます。普通に考えると箱の中で仕切られた中央の部屋には太陽の光は入りません。ですから、日中でもルームライトが必要になります。今のルームライトは良く出来たもので、部屋全体を平均的に明るくします。(ここで言うルームライトとは、スポットライト、アクセントライトなどを除くメインライトの事。)しかも、置いてあるモノの陰を意識するような事も無く、どこを見ても光が回っています。ただし、考えてみてください。「モノの陰を意識しない」は「モノそのものを意識しない」と言っているようなもので、モノの存在感を消し平面的な部屋のイメージをつくっていると言うことです。先に述べた通り人工光には動きがありません。人の気持ちにモノへの関心が無ければ(無くなれば)購入動機であった「好みの色・形(=デザイン)」も同時に無くなります。そのモノが道具であれば必要な時に手で触れることもあるでしょう。しかし、観賞して楽しむべき「デザインの価値」は失われたままです。その結果、人間工学に基づいた機能美の設計・デザインだけが残ったようになります。とくに、一旦設置された家具たちには「移動(=動き)」がありません。どんなに時間が過ぎようとその「顔」は変わらずにいます。不変は時に「退屈」を生んだりもしますよね。陽の光が部屋に入らなくなった時から失われたモノ、または、これから失われていくモノ・・・伝統工芸品の多くも犠牲になっているように思います。自然光(太陽光)がある生活環境こそ、モノに生命を与える源と言えるのです。
今回のまとめ
動き(光の強弱、光源の移動)のある太陽光は、モノの表情「デザイン」を導きます。
「陽の光」の採用(使い方)でデザインの意図するところが変わり、モノの価値を左右します。
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