第3回
共働学舎とさくら
2012.03.21 [功能 聡子]
さくら
1月下旬ころから店頭に並び始める「さくら」という名前のチーズを、毎年私は心待ちにしています。北海道十勝地方でつくられるこのチーズには、桜の花の塩漬けがのっています。上質な、やぎのチーズかと思うような、ほのかな酸味と甘みのあるくせのない味で、桜のやさしい香りが春を感じさせてくれます。
最初に近所のスーパーで見つけたときは、おいしい国産チーズに出合えたことと、それが「共働学舎」でつくられているということに心から感動しました。
共働学舎
元教員である宮嶋真一郎先生は、学校に行かれない、家から出られない、障害をもっている、あるいは家庭に問題がある子供たちの受け皿がないことや、教育を受ける機会が少ないことを深く受け止め、「競争社会」ではなく「協力社会」を築くため、1974年に共働学舎を設立しました。
今では、信州に2カ所、北海道に2カ所、東京に1カ所の共働学舎があります。
私が初めて共働学舎に出合ったのは、中学1年の夏休み。クラスメートに誘われてワークキャンプに出かけたのが、信州の共働学舎でした。
松本から大糸線に乗って南小谷駅で降り、そこから山道を登って真木の部落まで歩いていきます。村には大きなかやぶき屋根の古い住居が残っていて、10数人の人たちが田畑を耕し、牛や鶏を飼いながら、自給自足に近い生活をしていました。
いろいろな障害をかかえた人がいるので、ひとりひとりの能力にあったさまざまな仕事ができるようになっており、機織りやとうもろこしの皮を利用した人形づくりなどもできます。冬には2メートル以上の雪が積もるという山深い村。しかし夏の間、そこにはたくさんの人たちが手伝いに来ていました。大人もいれば、私たちと同じくらいの年齢の子供もいました。
中学生の私たちは、芋掘りや草刈りなどの農作業をしました。びっくりしたのは、共働学舎に住んでいる人たちの気ままな仕事ぶりでした。すごくゆっくりしか仕事のできない人もいました。
そんなある日、宮嶋先生が「誰かが少ししか作業をしないからといって、自分も少しだけやればいいと思うのは間違っている。ひとりひとりが、できる限り工夫して、努力して仕事をすることが大事だ」という話をしてくださいました。それがとても心に残りました。
共働学舎には、自閉症やひきこもり、登校拒否や精神的な悩みを抱えた人、また心身に障害を持った人たちが一緒に暮らしています。
自暴自棄になり、変わるはずがないと思われた人が、共働学舎で人とふれあう中で変わっていく。それがまた、他の人にも影響を与えていく。障害者だからと、今まで何でもしてもらっていた人が、仲間との暮らしの中で、何かをやってみようとする人に変わっていく。今まで眠っていた可能性が引き出され、生きる手ごたえにつながっていく…。そういう喜びとある種の緊張感が、子供心ながらに感じられる場所でした。それが私の中で、生きている意味や生きる手ごたえについて考えるきっかけになったのです。
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