私が見つけたライフワーク(3)

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第7回
コマ博士とマグサイサイ賞

今年の夏、嬉しいニュースが届きました。カンボジアで投資している社会的企業サハクレア・セダックの創設者・コマ博士が、栄誉あるマグサイサイ賞を受賞したというニュースです。コマ博士の長年の苦労が報いられたことを、多くの人が喜びました。
マグサイサイ賞は、1957年にフィリピン大統領ラモン・マグサイサイを記念して創設された賞。毎年、アジアで社会に貢献した個人や団体に贈られ、アジアのノーベル賞とも呼ばれます。過去にマザー・テレサをはじめ、緒方貞子氏やこのコラムでもご紹介した岩村昇氏などが受賞しています。
この機会に、コマ博士に教わったことを振り返ってみたいと思います。


農村を訪ねる筆者

私がカンボジアに赴任した1990年代は、国際機関や各国の援助団体、NGO等がカンボジアの復興を支援するために様々なプロジェクトを展開していました。
戦争中に多くの知識人が殺されたこともあり、人材育成が課題でした。保健、教育、農業のプロフェッショナルから、弁護士、警察官、行政官など、ありとあらゆる分野の外国人専門家が世界中からカンボジアに来ていて、教える人は外国人、教わる人はカンボジア人、という構図が一般的でした。
海外からの無償援助が中心の時代に、コマ博士はモノを与えるのではなく、時間をかけて農民と向き合い、「考える農民」を育成しました。「主役は現地の人」と言う人は多いのですが、農民を一人前の人間として信頼し、農民の能力を引き出すために何をするべきかを具体的に考え、首尾一貫して人材育成に努めた人は多くありません。

コマ博士は、カンボジア農村の生まれ。
父親が教師である家庭に育ち、ポルポト時代を生き延びて、1980年代に東ドイツに留学。ライプツイヒ大学で農学博士号を取得しました。
帰国後は、カンボジア王立農業大学等で教鞭(きょうべん)をとった後、7人のカンボジア人と共に、カンボジアの農業の発展や小規模農家の生活の向上をミッションとしてNGOセダックを設立しました。
カンボジア人自身によるNGO自体が画期的だったこの時代、創業直後の苦しい時期を乗り切ると、次々と新しい事業に挑戦していきます。


セダックが流通する有機米

特にSRI農法の導入は、セダックにとってもカンボジアの農民にとっても、転換点となる出来事でした。SRI農法は、農家にとっては大きな出費となる化学肥料や農薬を使わなくても、栽培方法や水管理の改善により数倍の収量をあげることができるという、財布にも生態系にもやさしい稲作方法です。
しかし、最初は誰も新しい農法を試みようとしませんでした。コマ博士は、1999年にまず自分の田んぼで実験。同時に、一人の信頼する農民に話して彼の田んぼでも実験してもらいます。
二人で効果を実感すると、他の農家への普及を開始。2000年に導入したのはわずか27農家でしたが、農民が実際に試して効果を実感すると、他の農家に広げる動きが生まれ、今ではカンボジア全国で14万世帯に広がりました。

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