第10回
美しくも怖い花
2012.07.10 [西原 升麻]
サワギキョウの花 独特な形で見ていて楽しい花です
続いて、同じく紫の花を紹介します。これは、サワギキョウといいます。山の水が流れている沢の近くなどに咲くキキョウのような花ということなのですが、実際はキキョウの花に似ていません。似ているとすれば、花の色とツボミの形くらいでしょうか。
山に咲いている花としては大型で、人間の背丈ほどのものも見かけます。目を引く、はっきりした紫の色と、羽子板の羽のような独特な花びらが特徴で、山の水ぎわや湿原など湿ったところで見かけます。
しかし、この花も見るだけにしましょう。けっこう恐ろしい花です。葉が堅そうで食べられるようには思えないのが救いですが、山菜の図鑑にも載っていませんし、普通の図鑑では毒草とも明記されていません。
実際に中毒事故が起きているかどうかは分かりませんが、有名な推理小説に、このサワギキョウが登場します。
「あっ、いけません。お客さん、それは毒です。毒ですけんおさわりんさってはいけません」
「毒草……?」
と、金田一耕助はあわててそれを…
ご存じ「金田一耕助」シリーズの作品「悪魔の手毬唄(てまりうた)」に、毒草として登場するのです。話の中では、地元で「お庄屋ごろし」と呼ばれている花ですが、「サワギキョウ」と正式名が明記されています。
サワギキョウには、実際ロベリンという毒性を持つアルカロイドが含まれています。ロベリンという名前は、サワギキョウの学名ロベリアから取った名前です。また、学名そのままでロベリアという花が園芸店などで売られていますが、花はミニサワギキョウといった感じで、これもまた毒草です。
ロベリア(左)とサワギキョウ(右)の花。美しい花ですが、どちらも毒草です
この金田一耕助シリーズは、小説がヒットしたのち、映画やテレビドラマにもなりました。
今回、久しぶりに「悪魔の手毬唄」の原作や映画その他の作品を見なおしてみました。すると、サワギキョウの扱い方に違いのあることが分かりました。
原作:サワギキョウはキキョウに似ている花と説明されている
映画:サワギキョウがヤマトリカブトに替えられている
ドラマ:リンドウのような花がサワギキョウとして使われている
コミック:実際のものと分かるようにかなり正確にサワギキョウの花が描かれている
なお今回確認したのは、映画版は市川崑(いちかわこん)監督、石坂浩二さんが金田一を扮するもの。ドラマは4作品あるうちの最初のドラマで、古谷一行さんが金田一を扮するものです。コミック版の「悪魔の手毬唄」は長尾文子さんの作品ですが、雑誌の付録に掲載されたもので、残念ながら単行本はありません。
「悪魔の手毬唄」の各種作品をご覧になる機会があったら、作品の中のサワギキョウを確認してみてください。わりと最初の方にサワギキョウが登場します。
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