第12回
あやしく咲くヒガンバナ。かつては重要な植物だった
2012.09.11 [西原 升麻]
ヒガンバナの葉
ヒガンバナと呼ばれる以前は、「マンジュシャゲ(曼珠沙華)」と呼ばれることが多かったそうです。曼珠沙華は漢字ですが、中国では「石蒜(セキサン)」というそうです。
「蒜」とは、ニンニクやノビルなどの古名です。ヒガンバナの葉っぱがニンニクに似ていて、石地に生えているから「石蒜」というわけです。石地とは、日本語では石が多くやせた土地のことを意味するようですが、中国の場合はどうなのでしょうね。
それにしても、ニンニクの葉に似た植物とは、日本とはずいぶんイメージが違うものです。
先に少し触れましたが、遠い昔の古典にはヒガンバナらしきものの記述が全く見られないそうで(唯一万葉集でそれらしきものがあるという説がありますが、これも決着はついていません)源氏物語、枕草子、徒然草にも載っていないそうです。
日本の文献に、ヒガンバナを指す「曼珠沙華」の記述が見られるようになるのは、足利時代だといいます。しかも、それを著しているのはいずれも僧侶。
花があやしいまでの赤で、葉が無く花だけで、しかも花の時期が彼岸ごろとくれば、僧侶がこれを仏典上の想像の花「曼珠沙華」だと思っても不思議はありません。また、寺院から広まったとすれば、墓地に多いというのも納得できます。ただ、こういう事実は確認できていないので、真実は歴史の中に埋もれたままです。
ヒガンバナは、その歴史だけでなく花自身も面白く、不思議なところがあります。実は、日本のヒガンバナには種ができないのです。ですから、仲間を増やすには球根の分球しかなく、増えてもその辺だけになってしまうわけです。
その割には北海道、北東北を除く全国どこでも見られるほど、分布範囲は広がっています。
これは長らく謎の一つでしたが、先に述べたように、かつては有用で大事な植物だったので、新しい土地でも積極的に植え、増やそうと、意図的に広められたとされています。
また、不思議なことに、ヒガンバナは全国でほぼ同じ時期に咲くといわれています。
実際にこの目で確認したわけではありませんが、ネットで各地の開花情報を調べると、大体同じような時期に咲いているのが分かります。
白いヒガンバナは少ないので、同僚のOKさんに写真を提供してもらいました
ちなみに先述の通りヒガンバナは種ができないので、変種や交雑種はできにくいはずですが、ヒガンバナには白花もあります。これは、「ショウキズイセン」と中国にある「種のできるヒガンバナ」との自然交配でできたといわれています。
ヒガンバナ同様、種はできず、自生は九州南部といわれているので、この「シロバナヒガンバナ」も人の手を借りて広まったのでしょう。この白いヒガンバナは、遠くから見ればヒガンバナと同じ形に見えますが、近くで見るとヒガンバナより個別の小花がはっきり区別できます。
多分、片方の親であるショウキズイセンの特徴を受け継いでいるのでしょう。
禁忌のイメージが強いヒガンバナも、赤い花と白い花が一緒に咲けば、紅白のめでたいイメージに変わります。
こういう咲き方が増えていけば、ヒガンバナに対するイメージも良くなっていくのではないかと、ひそかに期待しています。
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