第13回
「ホトトギス」といっても鳥ではなく、花の「ホトトギス」です
2012.10.09 [西原 升麻]
ということで、この花は切手で紹介しましょう。ちょうど今年はその牧野富太郎博士の生誕150年にあたるそうで、それを迎えるにあたり、記念切手が発行されたのです。この切手には、博士が発見したものや博士が命名したものなど博士に関わりの深い植物が5種類描かれていて、そのなかの一つにジョウロウホトトギスが含まれています。
ただ、この切手のジョウロウホトトギスですが、少し物議をかもしています。普通、この花は垂れ下がって咲くことが多いそうですが、切手の図では上を向いて咲いています。
何でこんな間違いを…と思ってしまいますが、理由は牧野博士が描いた標本画を元にデザインしたからのようです。標本画の場合は必ずしも生えている様子ではなく、植物の構造を正確に描くことを重視するからでしょう。
切手のジョウロウホトトギス
日本特産といわれるホトトギスですが、古典の資料では見かけません。試しに、「物類称呼」という資料を見てみました。この原本は江戸時代前期、安永4年(1775年)に出されたもので、当時のいろいろな物の地域別の名前が整理されたものです。この中に「生植」編という植物についてまとめた章がありますが、確かにホトトギスらしきものは載っていません。
米、もろこし、ささげ、えんどう、にら、ねぎ、ひる(にんにく)、いもなど、食べられるものが多く取りあげられています。
それ以外の植物もあるのですが、はこべら、ははこぐさ、うど、からすうり、ききやう、ひがんばな、つくし、すみれ、かきつばたなどです。
昔の人にとって関心があり、生活として役にたつもの、またはその辺で見かけるもので、呼び名がいろいろある物を選んだのでしょう。山の花は、見る機会があまりなかったのかもしれません。
機会といえば、冒頭で鳥のホトトギスは話題に取りあげられる機会が少ないと述べましたが、ふと思いついたことがあります。
1年半ほど前、あの東日本大震災の少し後から始まった計画停電、それが夜に始まったことを思い出したのです。一瞬で電気の全てが止まり、真っ暗闇となり、テレビもラジオの音も無い、本当に静まりかえって時間も止まっているような静寂の夜でした。あの独特な静けさが、昔の人にとっての「夜」だったのでしょう。
鳥のホトトギスが古典で扱われているのは、ほとんどその「声」です。最初に挙げた武将の例もそうですし、歌や読み物でもやはり鳥の声が関心の対象になっています。昔の人にとって鳥の存在は、「声」だったのでしょう。計画停電の夜のような環境の中で、ホトトギスが夜も鳴いていたのであれば、その声は人々の関心の的だったのかもしれません。
現代は、自然の音より騒音ともいえる人工的な音であふれていますから、鳥の声に耳を傾けることもめったにありません。
秋。都会の喧騒から離れ、野山へ出かけて自然の音や花風景と触れあうのも良いかもしれません。ぜひ自然の妙味を感じに、出かけてみてはいかがでしょうか。
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