第16回
草木にも「めでたい」ものがあります
2013.01.22 [西原 升麻]
元々松飾りは小正月までの15日までだったのですが、寛文2年1月6日、幕府から江戸の町民に、1月7日をもって飾り締めとするようにお触れが出されたのだそうです(別の説もありますが)。
実は、その5年前の明暦3年──といえば思い当たる人も多いと思いますが──戦火や地震を除いて日本史上最大の惨事といわれる「明暦の大火」がありました。このお触れは、火災予防が目的だといわれています。同時に左義長(どんど焼き)の禁止令も出されたそうですから、乾燥した松飾りが危険な物と考えたのでしょう。
松による木漏れ日金環食
松の葉は、独特な針状の形をしています。昨年、この葉の形状がありがたいと思った出来事がありました。2012年5月21日、そうです、932年ぶりに日本の広範囲で金環食が見られた貴重な日でした。
日食メガネは用意しておいたので、金環食自体はよく見えました。ただ、木漏れ日金環食も見たかったので、庭のいろいろな所を探したのですが、なかなか見つかりません。そんなとき、ふと見たブロックの塀にそれが映っていたのです。見ると、それは松の木漏れ日でした。松の細い葉は、こういうときにも役に立つと知りました。貴重な映像を見せてくれた松に感謝!です。
ナンテンの実
ナンテンの葉
ナンテンも、お正月の生け花によく利用されます。ナンテンは「南天」と書きますが、「難転」つまり難を転ずるともいわれ、縁起の良い植物とされています。ナンテンといえば、のどあめが思い浮かびますが、これはナンテンのo-メチルドメスチシンという成分がせきやのどの荒れに効くのだそうです。
また、今ではあまり使われませんが、ナンテンの葉はよく赤飯に添えられたそうです。ナンテンの葉にはナンジニンという成分があり、これに熱を加えるとチアン水素が発生するそうです。この成分は微量なら腐敗防止の作用があるといわれていたため、熱い赤飯の上に載せたようです。単なる迷信だけでなく、ナンテンには実力があったのですね。
みかんのような表面をしているナンテンの実
表面がなめらかなピラカンサの実
赤い実は数多くありますが、私はナンテンの落ち着いた赤が好きです。同じ庭木で赤い実がいっぱい付くものにピラカンサ(トキワサンザシ)がありますが、ナンテンの赤の方が魅力的です。
よく見ると、ピラカンサの実は表面がツルツルで、ナンテンの実は表面がミカンの皮のように表面がざらついています。このなめらかでない表面が、味わいのある赤色を作り出しているのだと思います。
ナンテンは、実や葉だけでなく、枝や幹も役に立ちます。細い枝は箸(はし)に、少し太い枝は杖(つえ)になります。特に、ナンテンの枝で作られた杖は「南天杖」と呼ばれ、これを使うと長寿になるといわれたそうです。
また、まれに太いナンテンの木が存在し、その幹が床柱に使われることがあるといいます。実際、金閣寺の「夕佳亭(せっかてい)」という茶席の床柱に使われていますし、柴又帝釈天(しばまたたいしゃくてん)には樹齢1500年といわれる日本一大きなナンテン床柱があります。床柱になる太さのナンテンとは、すごいですね。
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