私が見つけたライフワーク(2)

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第21回
見られそうでなかなか見られなかった里の花、オドリコソウ

日本には数多くの山野草がありますが、どこでもよく見られるものからあまり見られないものまで様々です。
あまり見られないものにも、いくつかの理由がありそうです。数の減少や元々数が少ないという当たり前の理由もありますが、そのほかに地域限定、場所限定(山や海岸)、偏在など数以外の要因も考えられます。

オドリコソウという山野草も、やはり「少ない=見られない」というパターンに合いません。実際に絶滅危惧種にもなっておらず(地域固有種を除いて)、数が少ないというわけでもなく、高山や海岸などの一部でしか見られないというわけでもないのですが、意外に知られていません。私も見たいと思ってもなかなか見られませんでした。

オドリコソウ全体の様子

実はこの花、見たこともなかったのに私にとっては思い出の花なのでした。
それというのも、その昔、山野草として見てみたいと思った最初の花だからです。
山野草に興味を持ち始めたころのこと。少し本格的な図鑑がほしいと思って全8巻の野草図鑑を手に入れたのですが、そのオドリコソウのところのメモ欄に著者による授業の思い出が添えられていたのです。

「『先生の授業で、この花について習ったその日からわたしは急に野の花が好きになりました。
自然て、おどろきと不思議さでいっぱいなのですね……』
ある女子大生の言葉。五十年間の教壇生活に悔いなし。オドリコソウよ、ありがとう」

この文章が印象的だったので、ぜひ一度見て見たいと思っていたのですが、なかなか見られませんでした。
ただオドリコソウは、どの図鑑を見ても「分布は全土。道端に生える、ふつうの多年草」などと書いてあり、どこでも見られそうなのです。それなのに、実際は何十年も見られないままでした。普通に見られそうなのになかなか見られない、まるで「なぞなぞ」みたいでした。

本当に、道路沿いに咲いていました

オドリコソウの場合は、その咲いている場所に問題がありそうです。
私の場合は花を見に日本全国へ出かけているわけではなく、近場に花を見に出かけていました。ただ近場といっても、結構いろいろなところへ行っているつもりでしたが、よく考えてみると、出かけるのは山、時期は春と夏と秋、そしておもに連休を中心に動いていたので、場所と時期に偏りがあったのでしょう。

オドリコソウは、山の中というよりも山近くの野原や道ばたで多く見られ、花も春と夏の間という時期に咲きます。特定の山に咲いている花なら、その山に行けば見られる可能性は高くなります。しかし「山近くの普通の場所」と言われても、わざわざ花を見に行く場所としては候補に挙がりにくいし、あまりにも範囲が広すぎて、どこへ見に行けばよいか迷ってしまいます。
ですから、普通の場所に咲いている花は、本当にどこでも咲いているもの以外は案外見つけにくいと思います。

実際、今回オドリコソウが見られたのは、山の中でも何でもない山近くの、ただの道路端です。
その辺では住めなくなった多くの山野草は山に逃げ込んだようですが、オドリコソウは体が大きくて足が遅く、うまく逃げられなかったのか、あるいは逃げるつもりがなかったのか、ともあれその辺に留まったようです。

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