第33回
マツムシソウは秋の花か?
2016.10.14 [西原 升麻]
最近は異常気象が多く季節感が段々と薄れてきていますが、それでも植物は季節の微妙な違いを感じ取って花を咲かせています。
夏には夏の花、秋になれば、ヒガンバナ、コスモス、そしてリンドウ、菊なども咲きます。しかし、中にはマツムシソウのように秋に咲く花であっても晩夏と言える8月から咲く、秋の花とは言い切れないものもあります。
マツムシソウはキクに似た紫色の花です
マツムシソウの魅力はまずその色にあるでしょう。一言で言えば紫色なのですが、リンドウの紫とは少し違っています。リンドウよりも優しい色合いで、おとなしい色と言えるのですが、リンドウと違って水平に花が開きます。それ故か、秋に咲く花では目立つ花になっています。
同じ紫でも色合いが異なるマツムシソウとリンドウ
マツムシソウは秋まで咲くし、花の形も菊になんとなく似ているのでキク科のような気もしますが、最新の分類ではなんとスイカズラ科。昔の分類ではマツムシソウ科と言う独自の分類にされていました。スイカズラ科はちょっと意外ですが、いずれにしてもキクの仲間ではないようです。
キクの花とマツムシソウの花、感じは似ています
特徴的なのは、その花びらの形です。キクの花に似ているように見えるのは真ん中に筒状花、回りに舌状花があるように見えるからでしょう。ただ、雰囲気は似ていますがよく見ると、真ん中の筒状の花はキクとは違って先が割れています。そして、外側の部分は舌状花にはなっておらず、筒状の花が変形していることが分かります。この部分を見ていると、スイカズラ科のツクバネウツギの花と似ているのが分かり、マツムシソウがスイカズラ科と言うのも少し納得出来ます。
マツムシソウの外側の花とツクバネウツギの花は何となく似ています
マツムシソウはキクへの進化途中のような気もしていましたが、最近では進化の過程で、ある時期にキクの仲間とマツムシソウの仲間は別れて進化したと判明しているそうです。決してキクへのなり損ねではなく、独自の進化を遂げた花だと言えそうです。
名前のマツムシは花の姿ではなく松虫、その秋の虫が鳴く頃に咲くからだと言います。スズムシは別ですが、マツムシは名前だけで鳴き声は記憶がありません。「あれまつむしが…」の唱歌ではチンチロリンと鳴いていますが、ネット情報ではチンチロリンとは聞こえない…?。でもチッ チリリと聞こえ、なかなかの美声です。チン チロリンとリズムだけは合っているようです。
夜には虫の声が聞こえそうな場所ではありました
ただ、松虫が鳴く頃に咲くからマツムシソウと言っても、そんなの他にもあるけど…と思っていました。しかし今回、平地ではまだまだ暑さの残る8月終わり、少しひんやりする山の草原で咲く紫のこの花を実際に見ると、「もうそろそろ秋か…」と言う秋の気配を感じます。そして、実はマツムシも秋になってからではなく、8月には鳴くと言います。両方とも夏の終わりを感じると言う共通項があったのです。
江戸時代の資料によると、マツムシソウとは信州桔梗ヶ原の方言とされます。地方なら特に季節の移り変わりに敏感で去りゆく夏を感じさせる松虫とマツムシソウが結びついたのかもしれません。
松虫が耳で秋の予感を感じるとしたら、マツムシソウは風に揺れる姿と紫の色が秋の気配を目で感じさせる花と言えますね。
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