第38回
スミレも香る――ニオイタチツボスミレ――
2017.03.18 [西原 升麻]
植物の名前には分割出来ないものと出来るものがあります。例えばユリは分割出来ませんが、コオニ・ユリ、ヤマ・ユリは2つに分割出来ます。もっと分割出来るものもあって、ニオイ・タチ・ツボ・スミレは4つに分割出来ます。一般的に数多く分割出来る名前は新しい名前だと言われます。
このニオイタチツボスミレも明治期になってから付けられたようです。
ニオイタチツボスミレの花はタチツボスミレより少し小型です
@ショウマ:スミレさんは単純な名前だね。
@スミレ :単純とは失礼ね。
@ショウマ:頭のことではなくて、名前のことだよ。
@スミレ :ああ、名前ね。でもシンプルと言ってほしいものだわ。人間なら役職や戒名で
やたら長いものもあるけど、花の世界では短いのが偉いのよ。
偉いかどうかは分かりませんが、短い名前の方が古いとは言えそうです。万葉の時代は簡素な名前が多く、構成は1語か2語。3語の名前はないと言われています。1語のものでは、アサ、イネ、クズ などで、2語のものにはヤマ・スゲ、ヒメ・ユリ、ツボ・スミレなどがあります。
昔のツボスミレはこのニョイスミレ?
昔のツボスミレはこのタチツボスミレの方?
@ショウマ:えっ? ツボスミレってそんな昔から知られていたの?
@スミレ :私ほどではないけど、そんなものもいたわね。
@ショウマ:そんなものって、お仲間なんでしょ?
@スミレ :まあ、仲間だけど少し怪しいやつよ。
怪しいとは可哀想ですが、昔のツボスミレはタチツボスミレ説とニョイスミレ説があって今でもはっきりはしていません。
タチツボスミレは空色っぽい薄紫です
ニオイタチツボスミレは色が濃く白が目立ちます
ツボスミレの事はさておき、ニオイタチツボスミレはタチツボスミレの仲間なのでよく似ています。ただ、よく見ると違いはあって、色の濃さと際立つ白、少し小型、花柄(花を支えている茎)の微毛などが違う(地域によっては違いにならない事もあるようですが)とされます。
タチツボスミレの多くは花茎に毛がありません
ニオイタチツボスミレの花茎には微毛があります
@ショウマ:ニオイと言うくらいだからニオイタチツボスミレは匂いがするの?
@スミレ :香りはするって聞いているけど確かめたことはないわね。
@ショウマ:じゃあ、確かめて来ようか? あっ、品のいい香り!
でもこの匂い、何と表見していいか分からないな。
そう言えば、スミレさんの匂いは? どんなのかな……。
@スミレ :ちょっ、ちょっとー、失礼ね。勝手に嗅がないでよ。
ショウマ君の言う通り、匂いを直接表現する専用の言葉は思いつきません。人には視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感がありますが、その中で、
- 視覚は形、色、景観、他にも様々な細かい表現
聴覚も音の表現として「ドン」とか「しとしと」のような擬音などの表現
味覚も単に味だけでなく、甘辛、酸っぱい。苦いなどの表現
触覚も触った感覚のつるつる、ザラザラ、温感の冷たい、熱いなどの表現
しかし、臭覚だけはこう言う言葉が見つからないのです。甘い匂い、すっきりした匂い、カレーのような匂いのように匂いの説明はあっても、赤や青みたいに色を表現する感じの言葉はありません。焦げたという特有の匂いはありますが、焦げると言う表現は匂い専用ではなく、状態も表します。
@ショウマ:スミレさん逃げちゃうからわからなかったけど、香りするの?
@スミレ :それはヒ・ミ・ツ…。
@ショウマ:え~っ? 気になるなあ。
エイザンスミレも良い匂いがします
スミレの匂いを確かめるのは意外に大変です。地面からわずか10cmくらいまで鼻を近づける必要があるからです。斜面や崖で顔を近づけられる場所に咲いていたらチャンスなので、是非澄んだ香りを確かめてみてください。
日本では香りのするスミレは少ないと言われます。ただ、他のスミレも人間が感じないだけかもしれません。鼻の利くイヌやネコの意見を聞いてみたいですね。
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