第40回
カキドオシは郊外に引っ越した?
2017.05.15 [西原 升麻]
春の日本は花の競演です。木の花なら梅や桜、草花なら公園のチューリップや芝桜、最近はネモフィラなども一面に広がって咲く様子がテレビで紹介されます。山でもカタクリやミズバショウなどは多くの人が見に訪れます。スミレやタンポポなどもよく知られていて人の目を引きます。
カキドオシの花は小さい
そこへ行くとカキドオシは同じ春の花なのにあまり注目されず、名前もあまり知られてはいません。春はライバルが多く少し地味な花だからかもしれませんが、結構かわいくて面白い花です。
デコボコなカキドオシの葉の表面
カキドオシはシソ科の植物です。シソ科の葉は似ている場合が多いと思います。特に葉の表面は不規 則な小片が多数並んでいて、その小片が盛り上がっている感じなのと葉の縁がホタテ貝の縁のよう(スカラップと言うそうです)なのが特徴です。葉の形としては、丸、三角、ハート型などいろいろですが、葉の表面は共通の雰囲気があります。
ホトケノザの葉、タツナミソウの葉も同じ特徴が…
茎に対して十字対生に付く葉
もう一つの特徴は葉の付き方で、対生(2枚の葉が向き合う)ですが十字対生と言われ、上下で90度向きが変わります。陽の光を多く受ける工夫だと思いますが、人と同じような知恵を持っているのには驚きます。
多くの花が円形で放射状の回転対称形になっていますが、シソ科の花は左右対称ではあるものの上下が非対称の形をしています。そしてシソ科の中でもホトケノザやタツナミソウが上下の花びらに分かれるのに対してカキドオシは花びらが上中下の3段構造と凝った造りになっています。また、花の外観も違って見えて、ホトケノザが仏様、タツナミソウが水鳥の顔みたいに見えますが、カキドオシは宇宙人のようにも見えるユニークな形をしています。
ホトケノザの花は仏様
タツナミソウの花は水鳥の顔?
カキドオシの花は宇宙人?
カキドオシのブラシ
よく見るとカキドオシの花は中段にブラシのような毛が密集しています。オシべ、メシベが上の方にあるので、小さな虫は受粉に役立たないから進入を防ぐのだという話しもあります。そして花にある斑点は虫に対しての蜜誘導目印だとも言われます。そう言われると工夫の結果、凝った構造になった理由もなんとなく分かります。 蜜誘導マークは他の種類にもあるのでシソ科特有と言う事ではなく、植物全体の話として蜜誘導が斑点なのか他の模様、または他の仕組みなのかと言うことなのでしょう。ところでカキドオシの名ですが、これは漢字で書くと垣通し。垣はもともと周りを囲った土塀のことでしたが、その後敷地を限るために設ける囲いや仕切りも表すようになり、竹や植木などの植物で作るから垣根になったと言います。その垣根を越してその向こうまではびこるから垣通しなのだそうです。
花の時期は茎も立っていて小さくかわいい花なのでそんな風には思えませんが、夏になるとツルを伸ばしてはびこるのだと言います。確かに夏にはびこっている場所はあります。結構広がっていて、これが家の庭だったら確かに隣の家まで広がって行きそうです。
夏以降は横に広がるカキドオシ
カキドオシは平地から山まで生育範囲は広いようですが、山の場合は環境が厳しくライバルも強者が多いのか平地のように広がっているのはまだ見ていません。最近、家と家の境目に用いられるのは多くがブロック塀です。それが理由かどうかは分かりませんが、家庭の庭ではびこると言うのはあまり耳にしません。今の都市環境はカキドオシにとって住みにくい世界なのかもしれません。
それでも街を少し離れればまだよく見かけます。もし郊外でもカキドオシを見られないようになったら、我々人間が住む環境も悪化している可能性も考えられます。
カキドオシは適度な繁殖力があるので身近な環境パロメータに活用できるかもしれませんね。
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