らくらくわくわく 山野草見て歩き

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第3回
イカリソウとクモキリ

蜘蛛のようにも見えるイカリソウ蜘蛛のようにも見えるイカリソウ

ただ、この花をじっくり見ていると錨というより、クモの感じがしてきます。そう言えば前述の「物類称呼」に別名が「クモキリ」とありました。ただ説明がなく、クモが蜘蛛か雲なのかも分からず、キリもよく分かりません。しかし、世の中には同じような疑問を持つ人がいるのですね。
「植物和名の語源探求=深津正著」という本の中でクモキリは「蜘蛛切」だとしています。平家物語などで源頼光が大蜘蛛を真っ二つに切ったことから、その刀=膝丸を以後蜘蛛切と呼び、蜘蛛を二つに切った状態に花が似ているからだとしています。


「和漢三才図会」(国立国会図書館蔵より)にもハエとハエトリクモが載っています「和漢三才図会」(国立国会図書館蔵より)にも
ハエとハエトリクモが載っています

源頼光の蜘蛛切かどうかは別にして、イカリソウの足4本の姿は蜘蛛半分の形だというのは分かります。でも気になることもあります。物類称呼によると、これは江戸の方言だと言うのです。なぜクモキリが江戸なのでしょう? 実は、江戸で蜘蛛が流行ったことがあるそうです。飼うのが目的ではなく、遊びというか、勝負事として利用していたようです。

蜘蛛同士を闘わせるのではなく、ハエを捕まえるのを競わせるのです。江戸時代の百科事典と言われる「和漢三才図絵」にもハエとハエトリクモ(蝿虎は中国名でインフウは読み)が載っています。また、井原西鶴の好色一代男にも江戸で流行っているからと「蝿取蜘」を仕入れる話が出てくるというのですから、実際に流行っていたのでしょう。蜘蛛は江戸の人にとっては思いのほか、馴染みが深かったようです。それならば、江戸ではイカリソウをクモキリと言ったのも不思議ではないのかもしれません。


花を逆さにすればやっぱりイカリソウ花を逆さにすればやっぱりイカリソウ

花にしてみれば錨でも蜘蛛でも、どうでもいいことだと思うし、蜘蛛切は少し残酷な気もするのでやはりイカリソウという名前のままにしておきましょう。

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