第6回
まほろばの里・市が尾別館/市が尾本館 ノーマライゼーションを実践するホーム
2011.08.02 [木原 洋美]
入居者を区別しちゃいけない
ご入居者の似顔絵
Tさんが描いた、まほろばの里 市が尾別館のご入居者たち。大切にケアしている気持ちが伝わってくるようでした。
「ユニットケアは、フロア分けして、ご入居者を区別している点に疑問を感じています。認知症の方だけのフロアは、はたして、ご入居者の方にとって、よいことなのかどうか。
たとえば『まほろばの里・市が尾別館』には、別の有料老人ホームの認知症棟から移ってきた方がいます。その方は数年間そこに入居していたそうですが、他のご入居者とはほとんど会話できなかったと言っていました。ものすごいおしゃべり好きなのにつらかったと。今は活発に、いっぱいおしゃべりしていますよ。
人間は孤独に弱い生き物です。私は、あちこちのホームを見学しましたが、認知症フロアのご入居者で、楽しそうにしている方が多いホームは、あまり見たことがありません。私が認知症の親のこどもの立場だったらと考えると、認知症専用フロアに入れたいとは思いません」(Tさん)
言われてみれば認知症とひとくくりにいっても、病名も症状も違うし、病気の進行具合によっても、できること、できないことが違います。
もしも症状の軽い方が、重い方ばかりのなかに入ったら、相当滅入るに違いありません。
「ノーマライゼーション※にも反していますよね。介護の現場といえども、人間的な処遇を考えたなら、区別するべきではないと思います。本来は、さまざまな人が周囲にいるのが自然ではないでしょうか」(同)
この考え方に、私は賛成です。
でも、ほかの施設が認知症専用フロアを設けるのには「安全管理がしやすい」「ほかの入居者が、認知症の方と一緒になるのをいやがる」といった理由があります。それは大丈夫なのでしょうか?
「せめてホーム内では区別せず、鍵もかけない、というのがうちの方針です。認知症の方は汚いとかいやと考えるご家族では、入居していただくことが難しいかもしれません。その点については入居の際に、しっかりとお話して、納得していただいています。実際、入居される方の多くは、自立の方ではなく、何らかの介護が必要な方ですから、集団で暮らす意味をご家族にもご理解いただくことが大切だと思っています。
安全管理の部分は、スタッフの力量にかかっています。うちはいいスタッフがそろっています。自慢はベテランが多いことです。平均年齢は50歳を超えていますよ。年齢が高いと敬遠するホームも多いようですが、私は介護の質を考えてベテランを積極的に採用しています。
実際、若いスタッフが中心で、ベテランの居場所がないホームもあるようです。でもそれじゃ介護の質は確保できません。離職率が高いホームはだめ。ご入居者が精神的に安定しませんからね。
うちのスタッフは、介護業界で長く働いている人が多くて助かっています。欠員がでたときには、求人を出さなくても、スタッフが友達を連れてきてくれます。働きやすい職場なのではないでしょうか。
若いスタッフもいますよ。20歳前後の人もいます。若い人や障害のある人、外国の方など、いろいろなスタッフがいるのがいいと思います。それも一種のノーマライゼーションでしょう。仕事は効率よくこなせばいいということだけでもありません。ご入居者も含めて、さまざまな人間が、お互いの立場を思いやることが大切だと考えています」(同)
言葉の一つひとつに、Tさんの信念を感じます。
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