第25回
外へ向かう気持ちを後押ししてくれる介護旅行の「あ・える倶楽部」
2013.06.11 [木原 洋美]
元特攻隊員を知覧へ、初恋の人を探しに三軒茶屋へ
最も要望が多いのはお墓参り
「介護旅行とは、トラベルヘルパーによる介護サービスが旅行中も受けられる、介護サービス付き旅行というニュアンスですね。バリアフリー旅行の一部です。
介護保険制度では認められている介護サービスは、ホームヘルパーが居宅を訪問して、入浴、排泄(はいせつ)、食事等を行う介護等から、日常生活上の世話、掃除、洗濯、通院等のための乗車又は降車の介助等(ただし通院等のための乗車又は降車の介助のみのサービスは認められない)まで。
いわば、屋根があるところでのサポートです。お墓参りに行きたい、温泉に行きたい、孫にお小遣いをあげに行きたい、買い物をしたい…といった屋根のないところでのサポートは入っていません。我々はそこの介護を請け負います」
と、篠塚さん。
「介護旅行」の守備範囲は広く、ご近所のショッピングセンターから海外まで。
目的も散歩から、「死ぬ前になんとしてもやっておきたいこと」の実現まで十人十色。
たとえば…
●特攻隊の生き残りの男性85歳を知覧へ
寝たきりになり、壁と天井を見上げるだけになっていた男性の願いは、
「特攻隊仲間が飛び立った知覧に行きたい!仲間が別れを告げた開聞岳を見てみたい」
というものでした。
家族は何とか叶えてあげたいと思ったものの、要介護度は3。
「ムリな旅をさせて、具合が悪くなったらどうしよう」という不安が強かったそうです。
「ですが、そんな心配をなさる必要はないんですよ。
我々は寝たきりの方をナイアガラの滝へ観光にお連れしたり、106歳の方の旅を企画したこともありますからね」(篠塚さん)
かくして男性は家族とトラベルヘルパーとともに旅立ち、無事、長年の思いをかなえたのです。
しかも知覧の特攻平和会館では、ご本人が満州から出した手紙が展示されているのを発見する…というサプライズにも遭遇。
すっかり元気になり、自信を得た男性は、「次はラベンダーを見に北海道へ行こう」と帰りの飛行機の中で切り出し、じきに実行。
次は上高地、その次は…と意気軒昂(いきけんこう)。
88歳を迎えた現在も、矍鑠(かくしゃく)としているそうです。
●初恋の男性を探して世田谷を訪れた女性
その女性は「世田谷へ一緒に行ってほしい。家族には頼めないので」と連絡して来たそうです。
一人で出歩けないわけではなく…「明治記念館(港区)までなら、女学校時代の同窓会で利用したので行けるけれど、その先には行けないのです」と。
なぜ?
不思議に思って尋ねると女性は「初恋の男性を見つけたい。60年前、世田谷で葬儀屋をしていました」とぽつり。
女性が記憶していた住所は既に存在しなかったため、篠塚さんは世田谷中の葬儀屋に電話をかけまくり、発見したのでした。
もちろん女性は大喜びしたそうですが、正直、そんな探偵のようなことまでするとは驚きです。
「介護旅行というと、旅行だけというイメージを持たれますが、そうではありません。
我々は、初めはその人の手足となることからですが、やりたいことをお手伝いさせていただく便利屋のような仕事だと思っています」(篠塚さん)
依頼で多いのは、お墓参り。
その他、孫のウェディングに参列するための旅行、孫と一緒に海水浴…変わったところでは「吹雪を体験したい」という希望を叶えるための旅というのもあったそうです。
十人十色どころか千差万別です。
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