実例で学ぶ事業承継のポイント

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第4回
自社株を相続する際の留意点(2)

事業継承者とそれ以外の親族との間で、遺産分割をめぐって、もめることがよくあります。それを回避するため、「遺言」を作成し、あらかじめ遺産分割内容を指定しておく方法があります。
そうすれば、たとえ分割内容が偏っていたとしても、法的根拠をもって遺産分割を円滑に進めることができるのです。しかし、その「遺言」にも注意が必要です。「法定遺留分」という「不利な遺産分割を受けた相続人」に与えられている権利を行使されるケースがあるからです。この規定は、「親の愛を受けられなかった子の生きる権利」ともいわれ、民法では偏った遺産分割に不服のある者は、「遺留分減殺請求」という訴えを起こせば、法定相続分の二分の一までは合法的に取り戻せることになっているのです。その権利が事業承継における「遺言の弱点」となり、おもわぬ障壁となることがあるのです。次の事例で説明します。

会社に貢献しない次女の取り分が増えた

第1段階(社長交代時点:オーナー健在)

  • あるオーナーの財産:現金2億円、自社株10億円(妻は既に死亡)
  • 家族構成:長女:婿養子をとり、婿が次期社長
    1. 次女:他家へ嫁ぐ(法定相続人は3名)
  • 現時点での次女の法定遺留分:12億円÷3名×1/2(法定遺留分)=2億円
  • この時点でオーナーが死去し、次女が主張すれば2億円の現金を全部相続できる。

→長女夫妻は自社株を相続できるものの納税資金はなくなる。

第2段階(将来相続発生:オーナー死去)

  • その後、婿が次期社長として会社の業績を伸ばした。
  • 自社株評価額が22億円になったところで相続発生(オーナー死亡)。
  • その時点のオーナーの財産:現金2億円、自社株22億円
  • その時点での次女の法定遺留分:24億円÷3名×1/2(法定遺留分)=4億円
  • 次女が主張すれば4億円の財産を要求できる。

→長女夫妻は自社株を全部相続しようとすれば、納税資金ばかりか、
次女に渡す2億円を別途用意しなければならない。

この事例でいえることは、第1段階で2億円であった次女の法定遺留分が、第2段階で4億円に増えていることです。その間、次女は会社には何も貢献していないのに、これでは必死で働いて会社を大きくし、自社株の評価額を高めた功労者である婿社長は納得できないかもしれません。
ならば第1段階で長女夫妻に自社株を生前贈与してしまえば、よかったのではと考える方もあるかと思いますが、民法はそういう回避行為に対しては、生前贈与された財産は、相続発生時の時価で評価して相続財産と合算して、トータルで遺留分侵害がなかったどうか確かめるという規定になっており、このケースでの生前贈与は次女の法定遺留分の増加を防ぐ効果はないということになります。
自社株は確かに個人に帰属する財産ではあるものの、簡単に現金化できるものではありませんし、売れたとしても会社の経営権は弱まります。ですから自社株は、保有し続けることで会社を守れるのです。そして会社をうまく経営すれば、役員報酬や配当金を出せるのです。自社株は、農家に例えれば、「田畑」と同じ性質の財産と考えるべきではないでしょうか。
「この、たわけものめが!」という叱り言葉があります。語源は「田を分けてしまった(愚かな)者」からきているのでしょうから、「田畑は分けるべきではない」という考え方が昔からの言い伝えであったことになります。私も原則として、「自社株は分けるべきではない」と考えます。
しかし、「自社株は会社を継続するための「田畑」と同じである。」という、この考え方に基づき、自社株を後継者に集中させると、高額な相続税や遺留分の問題が出てきてしまうのです。

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